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生体認証で乗車・買い物スマートに…日立と東武鉄道が立ち上げた情報基盤の展望探る

買い物や電車への乗車、ホテルへの宿泊など生活をよりスマート化する取り組みが始まった。東武鉄道日立製作所は29日、手の指の静脈認証や顔認証を使い、さまざまな場面で本人確認から決済、ポイント付与などをワンストップで行える共通情報基盤を2023年度中に立ち上げると発表した。鉄道ではクレジットカードのタッチ決済機能などを使った乗車サービスが広がる。今後の展望を探る。(梶原洵子)

東武と日立は、生体認証技術を用いて個人の「デジタルアイデンティティ」を管理する共通情報基盤の社会実装に向けて協業する。同基盤は公的証明書や診察券、カード・ポイント情報、会員情報などをデジタルアイデンティティーとして登録し、生体情報にひもづけるというもの。消費者は指静脈などの生体情報だけで、店舗や施設で決済やサービスの利用などができる。

同基盤の特徴の一つは、小売店やホテル、交通機関などさまざまな業種の企業が共同で利用できることだ。企業は個々に生体認証システムを構築する必要がなく、利用企業が増えるほど消費者の利便性が高まる。最終的には同基盤の“生活インフラ”化を目指す。

人手不足に伴いセルフレジなどの導入が進んできたが、「必ずしもうまくいっていない」と日立の吉田貴宏マネージドサービス事業部長は指摘する。酒などの年齢確認が必要な商品は有人レジでしか購入できず、ホテルやスポーツジムでは非会員の不正利用が懸念される。年齢ともひもづいた同基盤と生体認証を使えば、この問題を解決し、無人端末の利用を広げられる。

東急電鉄のクレカタッチ改札

第1弾として、東武鉄道傘下の東武ストアで23年度中に同基盤に対応したセルフレジを複数店導入する。東武スポーツクラブへの導入も検討中だ。東武鉄道の山本勉常務執行役員は「生体認証は、(鉄道やホテル、商業施設など)生活全般に関わる我々の事業に親和性が高い。なくてはならない時代がくる」と期待する。鉄道での利用も検討する。

一方、鉄道では交通系ICカードに続き、クレジットカードのタッチ機能や2次元コード(QRコード)を使った乗車サービスに注目が集まっている。

クレカ乗車は世界で急速に広まっており、訪日外国人旅行者も利用しやすい。江ノ島電鉄(神奈川県藤沢市)や福岡市地下鉄などが利用を開始し、実証実験計画を含め東京メトロなどの多くの企業が導入を進めている。

東急電鉄は30日から田園都市線でクレカ乗車とQRコード乗車の実証実験を始める。同社のサービスは先行例とひと味違う。利用者は1日乗車券などのデジタルチケットをウェブ上で事前に購入し、入出場にクレカタッチ決済やQRコードを使う。通常の乗車よりも価格を安く設定し、沿線の周遊を促す。「『いつでもどこでもおトクに』を実現する」(同社担当者)狙いだ。クレカのタッチ決済を使った後払い乗車サービスは24年春以降の実施に向け検討する。生活に密着した新たなデジタルサービスが続々と生まれている。


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日刊工業新聞 2023年08月30日

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