化学業界で活発化、住友化学・旭化成…それぞれのバイオトランスフォーメーション
環境対応と経済性の両立期待
バイオテクノロジーの活用によって社会課題の解決や持続可能な経済成長の実現を目指す「バイオトランスフォーメーション(BX)」の研究開発が化学業界で活発化している。経団連が3月に公表したBXに関する提言を踏まえ、住友化学は合成生物学を使った素材開発に乗り出した。旭化成はバイオエタノールを使った基礎原料を製造し、2027年の実用化を目標に掲げる。コスト面などの課題解決に向けて今後、国や産業界などと連携した取り組みが重要となりそうだ。
経団連のBXに関する提言では、バイオ技術の適用分野について工業・エネルギー分野の「ホワイトバイオ」や食糧・植物分野の「グリーンバイオ」など五つに分類した。
住友化学が力を入れているのがホワイトバイオ。微生物などを組み合わせて人工的に設計する「合成生物学」を使ったモノづくりだ。米ギンコバイオワークスと連携し、合成生物学を活用した機能化学品の研究開発に乗り出した。化学品の製造に合成生物学を使うことで、石油由来の製造工程で発生する二酸化炭素(CO2)の削減などにつながると期待する。
一方、旭化成はバイオエタノールから多様な基礎化学品を製造する技術を開発中だ。エチレンやプロピレンなど生産する基礎化学品の幅を広げ、自動車向けで求められる環境負荷の低いバイオマス原料由来の部材として提供することも視野に入れる。
経済協力開発機構(OECD)は、加盟国のバイオテクノロジー産業が30年には200兆円規模になると予想するなど、グローバルでの成長産業として期待される。また各国が目指す脱炭素社会の実現には、「経済性を両立しないと一過性のブームで終わる」(大手化学メーカー首脳)との見方があるだけに、環境問題への対応と経済性を両立するBXの実現にかかる期待は大きい。
住友化学の岩田圭一社長は「大量生産が苦手で、コストもまだ高い」と課題を指摘する。経団連の提言では、ホワイトバイオについて国や自治体によるバイオ化学品の優先調達の推進、バイオナフサの開発支援などを求めた。
国の支援の動きも出てきた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は23年度から10年間で計約3000億円の予算で「バイオものづくり革命推進事業」を実施する計画だ。産業界や政府などと連携した取り組みも今後さらに重要となりそうだ。
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