リコー・キヤノン…進む環境対応、複合機メーカーに「先駆者」の知見
電機業界でサーキュラーエコノミー(循環経済)実現に向けた動きが加速している。オフィス複合機に加え、現金自動預払機(ATM)のリユース(再利用)やリサイクルといった環境対応が進む。自社製品を回収後、工場で分解、清掃、洗浄し、再利用可能な部品を再生製品に搭載する仕組みだ。特に複合機メーカーは1990年代から自主的に使用済み製品の回収を行うなどしており、先駆者としての知見を産業界に広げることも期待される。
日立チャネル・再生部品搭載ATM
日立チャネルソリューションズ(東京都品川区)は、再生部品を用いた資源循環型のATMの受注を10月以降に始める。使用済みATMを回収・分解し、再利用できる部品を再生ATMに搭載する。2023年度に220台の再生機の販売を目指している。
ATM1台の重量は500キログラムに上り、重量の95%が金属だ。部品やユニットの再利用に当たっては、部品選定の独自基準を設け、工場では再利用部品専用の生産ラインを設置する。専用ラインで選別・診断の上、部品の仕分け・組み立て・試験を実施。部品再生の工程を確立することで、新品のATMと同等の機能や性能を実現する。
資源循環モデルで再利用する主な部品は、紙幣や硬貨を収納するカセットや電子基板など。カセット主成分のエンジニアリング・プラスチックは強度があり、リサイクル技術が発展途上のため再利用に適しているという。
現在、再利用を前提とした自社製品の回収から、部品の抜き取り、解体・分別までの一連のスキームを構築中だ。また、ATMの板金の一部にリサイクル板金を用いる方針で、加工性や強度などの評価も進めている。再生機、新品機ともに標準搭載していく考えだ。
ATMは資源有効利用促進法や小型家電リサイクル法などの対象外となるため、顧客である金融機関にはメーカーへの返却義務がない。例えば店舗統合や新品と旧品の入れ替えなどで不要になったATMは産業廃棄物となる。金融機関が地場業者などに産業廃棄物として委託したり、リサイクル業者に売却する場合も多い。
こうした事情から、日立チャネルソリューションズでの使用済みATM回収率は4―5割にとどまる。25年度には90%以上に引き上げる方針だ。ATMはメーカーによって仕様も異なり、汎用部品ではない製品固有の部品もある。部品のリユースは自社以外では行いにくく、資源循環を推進して再生機を市場に流通させるには回収率の向上が求められる。
24年7月前半をめどに、1万円札、5千円札、千円札の新紙幣が発行される。それに合わせて旺盛なのがATMの交換需要だ。同社はこれを追い風にATMの回収率を高めていきたい考え。再生機は新品同等の機能や性能だが、ATMは一種の社会インフラであり、金融機関側は導入に慎重な姿勢を示す。国内事業部企画本部の藤田裕一本部長は「顧客の理解を得ながら、サーキュラーエコノミーにつながることをアピールしていきたい」と強調する。
リコー・複合機回収率95%以上
他業界に先駆けて、自主的に環境対応に取り組んできたのが複合機業界だ。複合機の部品点数は数千点に及ぶが、使用済み製品の回収や分解を経てつくられる再生複合機も流通している。富士フイルムビジネスイノベーション(BI)の再生機の販売比率は国内販売台数の約14%を占める。環境に貢献できる商材として、販売比率を向上していく方針だ。
リコーは再生機を環境事業開発センター(静岡県御殿場市)で生産する。全国から年間10万台の使用済み複合機を回収。リコーリースやリコージャパンといった販売チャンネルを持ち、回収率は95%以上に上る。
リコーでは基本的に1世代前の製品をリユースするが、新品よりも安く生産することが難しい機種もあるという。また新製品の投入時は性能の向上だけでなくコストの低下も図るため、その分、再生複合機に求められるハードルは上がる。ロボットの活用や歩留まりの向上に加え、継続的に再生複合機を生産できるための技術開発が欠かせない。
キヤノン・黒色プラ片を高精度選別
再生機以外にもさまざまな取り組みがある。キヤノンはプラスチックの選別に役立つ技術を開発した。リサイクル時にプラスチック片の種類を選別する際、黒色プラスチック片とその他の色のプラスチック片を高精度に同時選別できる「トラッキング型ラマン分光技術」だ。
レーザー光をプラスチック片に照射し、物質の分子情報を取得する測定法であるラマン分光法と、キヤノンの計測・制御機器を組み合わせることで選別の効率性を高め、再利用できるプラスチック量を増やす仕組み。製品化を進めており、24年上期にトラッキング型ラマン分光技術を導入したプラスチック選別装置を発売予定。まずはリサイクル事業者を対象に販売する。
複合機業界では、環境対応が声高に叫ばれる以前からリユースやリサイクルに積極的に取り組む企業が多かった。だが従来は、必ずしもこうした取り組みを対外的に発信していなかった。BツーB(企業間)事業を主体に展開していても、機械やサービスの最終利用者である個人に向けた発信力が今後さらに求められそうだ。