10期連続赤字予想…低迷「JDI」は技術力テコに長いトンネルを抜け出せるか
ジャパンディスプレイ(JDI)が業績低迷から抜け出せずにいる。2024年3月期は10期連続で連結当期赤字を見込む。構造改革の実践や次世代有機EL(OLED)ディスプレーである「eLEAP」など技術力をテコに26年3月期に営業損益を黒字化させる計画を掲げる。不確定要素も多い中、長いトンネルを抜け出すことはできるのか。(編集委員・小川淳)
4月に世界3位のディスプレーメーカーである中国のHKC(恵科)との事業提携を発表したJDI。独自開発のeLEAPの技術を供与し、中国で工場を共同で建設する。数千億円とみられる投資額はHKCが負担する。ウエアラブルデバイスや車載パネル向けに25年をめどに量産を始める予定だ。
またJDIによるとインドの有力企業からの技術供与や共同事業に向けての引き合いがあり、HKCと同様にeLEAPを用いた工場建設に向けた協議をしているという。
JDIのスコット・キャロン会長兼最高経営責任者(CEO)は「eLEAPをインドにおいてもぜひ作りたい。ハードルの高い話だが、数年内に締結まで持って行きたい」と話す。
eLEAPは従来と同じ蒸着方式にもかかわらず、メタルマスクを一切使わず、従来比でピーク輝度を2倍、寿命を3倍に延ばせるなどの優れた特徴を持つ。さらに曲線を持つ自由な形状も作れる。第10世代などの大型基板にも適用できる。
「ディスプレー産業の三重苦(コスト増、需要減、稼働減)」(キャロンCEO)が続く中、10期連続で連結当期赤字を見込むJDIでは、これまでも白山工場(石川県白山市)や海外拠点の売却など構造改革を進めてきた。さらに不採算のスマートフォン事業などから撤退する。
一方でJDIはここ数年、eLEAPなど新技術を武器に他社と積極的に連携するオープン戦略を推進する。キャロンCEOは、「当社は『脱重厚長大』をしないといけない。身軽な会社になってテクノロジーカンパニーにならないといけない」と語る。
さらに、経営破綻したJOLED(ジェイオーレッド)からの事業譲渡が18日に完了しており、100人弱の技術者を新たに引き受け、技術力に厚みを持たせる。
JDIではeLEAPやHMO(高移動度酸化物半導体)など6分野を成長ドライバーと位置付け、中長期の飛躍を目指す。計画ではHKCとの提携効果などにより、26年3月期に営業黒字を達成する見込みだ。
JDIはディスプレー技術を応用した新技術の開発にも力を入れ、新しい収益源を模索している。
その一つがセンシング技術だ。22年4月には非接触の外付けのホバーセンサーを発売した。自動受付機や自動券売機、セルフレジなど既存のタッチパネルに取り付けられるのが特徴。センサー表面から約5センチメートル離れた位置からでも指を検出し、手袋をしていても操作が可能だ。コロナ禍以前から開発をしていたが、非接触需要の高まりを受けて商品化した。医療現場や自動受け付けなどでの普及を期待する。
また、薄膜トランジスタ(TFT)の技術の応用では、体に沿って曲げられる生体センサーを開発した。近赤外光を用い、体に負担をかけずに静脈のイメージングや脈波などを継続的に計測でき、健康管理などに役立つ。同様にTFT技術を応用して圧力分布を高精度に検知するセンサーも開発しており、スポーツやリハビリ、製造現場の検査、ロボット分野などへの応用を目指している。
センシング以外では、ミリ波を任意の方向に反射できる人工構造体「メタサーフェス」の透明な液晶反射板を開発した。こうした製品は世界初だといい、量産に向けた技術検討を進めていく。
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