ハイレベル枠に半導体目立つ、文科省が公表した「理工系強化支援案件」の全容
文部科学省はデジタルやグリーン分野の理工系学部などを強化する「大学・高専機能強化支援事業」の初年度の案件を決めた。高度情報専門人材の育成を3年間で60件支援する計画では今回51件を選び、ブームの様相だ。うち高い効果が見込まれる計画に助成額を上乗せするハイレベル枠は7件。北海道大学などの半導体人材育成が目を引く。再編支援は申請があった67件を全て採択。初の理系学部・学科設置となる案件が3割を占めた。私立文系大学が中心の日本で、少子化とデジタル社会の課題を越える重要な事業となる。(編集委員・山本佳世子)
大学・高専機能強化支援事業は「支援1」と「支援2」の2種類で構成される。支援1は公私立大学が学部再編などで理工農系へ転換するのを促すものだ。「理系人材を増やすのが目的」(文科省専門教育課)のため、現状の定員充足率などの要件を満たせば助成金の対象となる。ライバルを蹴落とす競争的資金とは様相が異なる。分野はIT、人工知能(AI)、データサイエンス(DS)、半導体などデジタルが6割、環境などグリーンが2割。その他は食、農、健康などだ。
文系大学をはじめ、「3年以内に学部の設置認可を申請」といった検討段階の「フェーズ1」が多くを占める。施設・設備の整備を支援する「フェーズ2」、開設から完成年度の「フェーズ3」まで文科省が伴走する。
一方、支援2は国公私立大・高等専門学校すべてが対象で、大学院など高度情報専門人材育成の強化を支援する。応募56件から51件を選定、うち高専は5件だ。理工系が強く「デジタル強化は当然」と考える国立大の挙手が相次ぎ、3年間の公募枠だが、すでに残りは少なくなっている。
うち「大学院に挑戦したいとの声に応えるため、支援額を減らして置いた特例枠」(文科省専門教育課)では3件。これを含め東京都市大学、横浜市立大学などの7件が、支援1と同2のダブル選定だった。
激しい少子化時代だけに、重要なのはスクラップ&ビルドの計画だ。支援2に採択された国立大は一時的に情報系学部の定員を増やせるが、数年後には他学部の定員減などで全体での定員を元に戻す必要がある。支援1の公私立大はスクラップが必須ではないが、実施した場合は支援金額が増える。多くがスクラップを折り込んでいるという。
既存の伝統分野からの転換と、デジタル・グリーンでの新たな学生獲得の競争―。弱みを強みに転換すべく、日本の高等教育はこれまでと異なる段階に入っている。