ここだけでしか分からない歯車産業
生産動向、需要先、構造、求められる性能まで
さまざまな機械に組み込まれ、工業の象徴とされている歯車。身近な製品である時計や携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機、自転車、自動車などから、建設機械や鉄道、船舶、風力発電設備といった重厚長大なものまで、ありとあらゆる分野で活躍している。
経済産業省の2015年発表の機械統計によると、歯車・装置の生産高は08年の秋のリーマン・ショックの影響で急激に落ち込み、その後、長期的には回復傾向にある(グラフ1参照)。
同様に輸出額もリーマン・ショック後の急降下後は順調に回復を続けてきたが、中国経済の減速を受けた15年3月の実績は155・2億円、前年同月比100・4%と横ばいで落ち着いている(グラフ2参照)。
その一方で、企業がコストダウンに努めた関係から輸入額は近年大きく伸びており、15年3月実績49・7億円、対前年同月比111・8%を記録している(グラフ3参照)。
輸出先では米国、輸入元では中国がそれぞれトップに座しており、特に輸入額の伸びにおいて中国は大きな存在感を示している。
需要先別に見ると、日本歯車工業会(JGMA)会員企業(業界シェア約70%)の生産統計調査結果によれば、14年売上高累計において自動車産業向けが全体の51・7%と、過半数を占める。次いで産業機械向けが14%、建設機械向け6%、以下農業機械向け3・8%、工作機械向け3%、その他と続く。
伸びが顕著なのは自動車産業向けで、15年9月の単月でみるとリーマン・ショック前の08年6月比でも166・5%となっている。原因としてトヨタ自動車をはじめとした自動車メーカーの好調な生産の影響などが考えられる。
最大の需要先である自動車産業界の燃費規制にみられるように、環境問題への取り組みが産業界全体にとっての重要案件となっている昨今、機械の高効率化、コンパクト化、低騒音化などの実現を図るため、歯車には多くの課題が与えられている。
またロボットや精密位置決め装置、最新の医療機器など使用用途もますます広がっており、歯車の品質向上や新技術開発に向けて、産学とも活発な研究を行っている。
歯車の主な働きは、回転を伝えること、動力を伝えること、位置決めをすることの三つに大別できる。具体的には、機械の原動機からの動力を伝えたり、ハンドルやつまみを回転させながら位置決めをしたりする機構に使用する。あらゆる機械の中で働く歯車だが、身近な例として自動車に使用される歯車がある。
歯車は、自動車の中のさまざまな場所で重要な役割を果たしている。ディファレンシャルギアやウォームギア、変速機などがよく知られる。なかでも働きが直に体感できてわかりやすいのが変速機だ。
自動車の変速機は、手動で変速比を切り替える手動変速機(MT)と自動で切り替わる自動変速機(AT)に大別される。どちらも多くは歯車で動力を変速するが、その原理は次の通り。
かみ合う2枚の歯車において、回転を伝える側の歯車(駆動歯車)の方が、伝えられる側の歯車(被動歯車)よりも小さいとき、すなわち歯数が少ないとき被動歯車の回転速度は小さくなり、トルクは大きくなる。
たとえば運転のスタート時にはトルクが必要となるが、走り出して回転速度が上がればトルクは小さくて済む。これらの状況に応じて歯車の組み合わせを変えることで、回転速度とトルクの大きさを変動させ、最適に変速することができる。
MTは複数個の歯車が組み込まれており、シフトレバーを任意の段に入れることでかみ合わせる歯車の組み合わせを切り替えられる(図1)
その際、走行しながら切り替えると歯車が互いに“ガリガリ”と損傷してしまうので、スムーズな変速操作を助けるためのクラッチを組み込んでいる(図1は外してあるが、本来、左端の○で囲まれた個所に組み込まれる)。
クラッチを切れば動力伝達が遮断され、入れれば再び動力が伝達される。さらに、かみ合わせる歯車の回転速度を合わせて変速を円滑にするシンクロメッシュ機構を付けている。
こうした手動のクラッチ操作と変速操作なしで、自動的に変速できるのがATだ。ATの変速機では、トルクコンバーターと遊星歯車機構を組み合わせた図2のような機構が主流。トルクコンバーターの内部はオイルで満たされ、三つの羽根車が付いている。
動力を入力する側の羽根車の回転が中間の羽根車を介し、出力側の羽根車に伝わる。このトルクコンバーターがクラッチの代わりとなってスムーズな動力伝達を行う。遊星歯車機構は、中心の太陽歯車、周辺の遊星歯車と、この2種類を内包する内歯車の3種類の歯車列からなる。どれか一つを固定すると他の二つがかみ合う仕組みで、どれを固定し、かみ合わせるかの選択で変速を得る。
最近では歯車ではなくベルトとプーリで変速する無段変速機(CVT)や変速機のない電気自動車など、新しい構造を有する自動車が続々と登場している。基礎的な機械要素である歯車も必然的に、これにあわせて進化することが求められる。その要求は今、年々広範囲で高いものになっている。これは自動車に限らず全ての機械に言える。
<次のページは、歯車に求められる性質>
生産は回復基調、輸出大幅に伸びる
経済産業省の2015年発表の機械統計によると、歯車・装置の生産高は08年の秋のリーマン・ショックの影響で急激に落ち込み、その後、長期的には回復傾向にある(グラフ1参照)。
同様に輸出額もリーマン・ショック後の急降下後は順調に回復を続けてきたが、中国経済の減速を受けた15年3月の実績は155・2億円、前年同月比100・4%と横ばいで落ち着いている(グラフ2参照)。
その一方で、企業がコストダウンに努めた関係から輸入額は近年大きく伸びており、15年3月実績49・7億円、対前年同月比111・8%を記録している(グラフ3参照)。
輸出先では米国、輸入元では中国がそれぞれトップに座しており、特に輸入額の伸びにおいて中国は大きな存在感を示している。
顧客は自動車向けが半分
需要先別に見ると、日本歯車工業会(JGMA)会員企業(業界シェア約70%)の生産統計調査結果によれば、14年売上高累計において自動車産業向けが全体の51・7%と、過半数を占める。次いで産業機械向けが14%、建設機械向け6%、以下農業機械向け3・8%、工作機械向け3%、その他と続く。
伸びが顕著なのは自動車産業向けで、15年9月の単月でみるとリーマン・ショック前の08年6月比でも166・5%となっている。原因としてトヨタ自動車をはじめとした自動車メーカーの好調な生産の影響などが考えられる。
最大の需要先である自動車産業界の燃費規制にみられるように、環境問題への取り組みが産業界全体にとっての重要案件となっている昨今、機械の高効率化、コンパクト化、低騒音化などの実現を図るため、歯車には多くの課題が与えられている。
またロボットや精密位置決め装置、最新の医療機器など使用用途もますます広がっており、歯車の品質向上や新技術開発に向けて、産学とも活発な研究を行っている。
歯車はどのように働いているのか
歯車の主な働きは、回転を伝えること、動力を伝えること、位置決めをすることの三つに大別できる。具体的には、機械の原動機からの動力を伝えたり、ハンドルやつまみを回転させながら位置決めをしたりする機構に使用する。あらゆる機械の中で働く歯車だが、身近な例として自動車に使用される歯車がある。
歯車は、自動車の中のさまざまな場所で重要な役割を果たしている。ディファレンシャルギアやウォームギア、変速機などがよく知られる。なかでも働きが直に体感できてわかりやすいのが変速機だ。
MTとATの原理とは
自動車の変速機は、手動で変速比を切り替える手動変速機(MT)と自動で切り替わる自動変速機(AT)に大別される。どちらも多くは歯車で動力を変速するが、その原理は次の通り。
かみ合う2枚の歯車において、回転を伝える側の歯車(駆動歯車)の方が、伝えられる側の歯車(被動歯車)よりも小さいとき、すなわち歯数が少ないとき被動歯車の回転速度は小さくなり、トルクは大きくなる。
たとえば運転のスタート時にはトルクが必要となるが、走り出して回転速度が上がればトルクは小さくて済む。これらの状況に応じて歯車の組み合わせを変えることで、回転速度とトルクの大きさを変動させ、最適に変速することができる。
MTは複数個の歯車が組み込まれており、シフトレバーを任意の段に入れることでかみ合わせる歯車の組み合わせを切り替えられる(図1)
トルクコンバーターには三つの羽根車
その際、走行しながら切り替えると歯車が互いに“ガリガリ”と損傷してしまうので、スムーズな変速操作を助けるためのクラッチを組み込んでいる(図1は外してあるが、本来、左端の○で囲まれた個所に組み込まれる)。
クラッチを切れば動力伝達が遮断され、入れれば再び動力が伝達される。さらに、かみ合わせる歯車の回転速度を合わせて変速を円滑にするシンクロメッシュ機構を付けている。
こうした手動のクラッチ操作と変速操作なしで、自動的に変速できるのがATだ。ATの変速機では、トルクコンバーターと遊星歯車機構を組み合わせた図2のような機構が主流。トルクコンバーターの内部はオイルで満たされ、三つの羽根車が付いている。
電気自動車などの登場で歯車も進化
動力を入力する側の羽根車の回転が中間の羽根車を介し、出力側の羽根車に伝わる。このトルクコンバーターがクラッチの代わりとなってスムーズな動力伝達を行う。遊星歯車機構は、中心の太陽歯車、周辺の遊星歯車と、この2種類を内包する内歯車の3種類の歯車列からなる。どれか一つを固定すると他の二つがかみ合う仕組みで、どれを固定し、かみ合わせるかの選択で変速を得る。
最近では歯車ではなくベルトとプーリで変速する無段変速機(CVT)や変速機のない電気自動車など、新しい構造を有する自動車が続々と登場している。基礎的な機械要素である歯車も必然的に、これにあわせて進化することが求められる。その要求は今、年々広範囲で高いものになっている。これは自動車に限らず全ての機械に言える。
<次のページは、歯車に求められる性質>