大ヒット「ヤクルト1000」は増産急ぐ…機能性脚光で需要急騰の乳酸菌飲料、メーカー3社の戦略は?
「ヤクルト1000」の大ヒットなど、機能性表示食品(用語参照)の乳酸菌飲料の市場が盛り上がっている。健康に良いイメージがある乳酸菌飲料は以前から多く飲まれてきたが、コロナ禍で健康ニーズが一層高まり、「免疫改善」や「睡眠の質向上」といった特定の機能を付加した商品の需要が急増した。市場拡大は続く見込みで、メーカー各社は増産対応を急ぐ。市場をけん引するヤクルト本社、キリンビバレッジ、アサヒ飲料の3社の動向を探った。(編集委員・井上雅太郎)
機能性表示食品の乳酸菌飲料の代表格として知られるのが、ヤクルト本社の「ヤクルト1000」(宅配用・100ミリリットル)と「Y1000」(店頭用・110ミリリットル)だ。爆発的な人気を博し現在も品薄状態が続いている。
乳酸菌シロタ株を1ミリリットル当たり10億個と高密度に含んだ同社初の機能性表示食品。一時的な精神的ストレスがかかる状況で「ストレス緩和」と「睡眠の質向上」が期待できる。2019年に地域限定で発売。21年には全国販売を開始した。
大ヒットの要因について「社会課題としてこれらの機能のニーズがあり、ヤクルト1000を体感した方々による交流サイト(SNS)や口コミが急速に広まった」(同社)と説明する。
問題は供給が追いつかないこと。宅配用ネット注文サービスは新規注文を休止しており、Y1000の品薄も続いている。
そこで23年度から設備投資の強化を打ち出した。静岡県小山町に「富士小山ヤクルト工場」を設置し、24年3月に稼働を計画。1日当たり60万本を生産する予定だ。さらに千葉ヤクルト工場(千葉県四街道市)のリニューアルも計画。千葉市若葉区周辺の「ちばリサーチパーク」内に約350億円を投じて同260万本の生産拠点を整備し27年春の稼働を目指す。生産7ラインのうち5ラインをヤクルト1000などに充てる方針だ。
「免疫の司令塔に働きかける乳酸菌」としてキリングループが訴求するのが、独自素材「プラズマ乳酸菌」だ。グループ各社を通じてサプリメントや飲料、ヨーグルトなどを「iMUSE(イミューズ)」ブランドで展開している。
グループで飲料を担うキリンビバレッジは、機能性表示食品の乳酸菌飲料「おいしい免疫ケア」シリーズを展開する。3月に商品名を「朝の免疫ケア」から変更し、パッケージデザインも一新した。6日に容量を2倍にした200ミリリットルタイプを自動販売機専用として投入。28日にはカロリーを50%削減した「カロリーオフ」タイプを量販店などで発売する。吉村透留社長はシリーズで「23年度に前年度比で3倍の販売を目指す」と強気に語る。
主力の湘南工場(神奈川県寒川町)に容量100ミリリットルからの小型ペットボトル飲料の新製造ラインを設置し、このほど本格稼働させた。年産能力は約400万ケースで、設備投資額は約100億円だ。プラズマ乳酸菌入り飲料の販売が好調な理由について、吉村社長は「免疫ケアの習慣化(を促す訴求)に取り組んできた。プラズマ乳酸菌が免疫機能の司令塔に直接働きかける素材の強みが認知されてきた」と説明する。
同乳酸菌入り飲料の22年度の販売実績は659万ケース。同社全体の2億104万ケースの中で存在感はまだ小さいが、伸び率は前期比23%増と突出している。23年度はさらに同53%増の1010万ケースの大台を狙う。
「L―92乳酸菌の免疫機能維持という新しい価値を、アサヒグループ横断で提供していく」と、アサヒ飲料の米女太一社長は強調する。乳酸菌飲料では「カルピス」の100年を超える研究知見から、01年に機能性乳酸菌としてL―92を選抜。「免疫機能維持」と「ホコリなどによる鼻の不快感を軽減する」という機能性表示食品としての届け出が、消費者庁から23年に入り受理された。
アサヒ飲料は13年からL―92を配合した乳酸菌飲料「守る働く乳酸菌」として販売してきたが、6日に機能性表示食品の「守る働く乳酸菌W」としてリニューアル発売した。100ミリリットル入りと200ミリリットル入りの2タイプで、23年の販売で前年比10%増の75万ケースを見込む。
L―92は体内の腸管上皮細胞から入り、免疫機能の司令塔であるpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)の働きを助ける仕組みで、免疫機能の維持に役立つ。メカニズムについては、キリングループのプラズマ乳酸菌のpDCに直接働きかける機能とほぼ同様としている。米女社長は「免疫機能維持に加えて、鼻の不快感軽減というダブルの機能性が強みだ」とPRする。
アサヒグループはL―92乳酸菌をグループの新たな成長領域として展開する。8月以降、アサヒグループ食品からサプリメントなどで新商品を計画している。さらにアサヒビールでもL―92を配合する商品投入の準備を進めている。
心身で悩み多く…コロナ禍、各社の開発後押し
機能性表示食品の乳酸菌飲料の需要拡大は今後も続くと見られている。富士経済(東京都中央区)の「ウエルネス飲料市場の実態&NEXT健康飲料有望性分析調査」によれば、健康に良い効果があるとメーカー各社が訴求する「ウエルネス飲料」の市場は25年に22年見込み比で4・2%増の1兆2360億円に拡大する。
このうち乳酸菌やビタミン、カルシウムなどの成分を配合した「成分付加型飲料」は同4・8%増の7149億円で、ウエルネス飲料市場の約58%を占める見込み。
コロナ禍のマスク着用や外出自粛などの生活環境の変化により、美容や睡眠といった課題が顕在化した。これまで整腸機能を中心に飲用されてきた乳酸菌飲料は、免疫や睡眠の改善、ストレス緩和などの機能を訴求する商品開発が増えた。ウエルネス飲料調査では成分付加型飲料の堅調な伸びの要因に、フィジカルだけでなく、メンタルの健康訴求が進むことを挙げた。
清涼飲料市場は成熟化がみてとれる。全国清涼飲料連合会によると生産量はコロナ禍の20年が前年比4・9%減の2157万9000キロリットルと落ち込んだ。コロナ禍前をみても19年2268万4200キロリットル(前年比0・3%減)と横ばいだった。
そうした中、機能性表示食品の乳酸菌飲料には各社の業績のけん引役としても期待がかかる。ヤクルト本社の23年3月期連結決算は売上高が前期比16・4%増の4830億円、当期利益が同12・7%増の506億円と増収増益。ヤクルト1000の1日平均の販売本数は前期比77・7%増の203万本、Y1000は同3・9倍の51・7万本となり業績を押し上げた。24年3月期はそれぞれ250万本と95万本とさらに大きく増える見込み。
各社の収益力を測る上で、機能性表示食品の乳酸菌飲料の競争力が無視できない要因になってきた。