三菱ふそうが攻勢、新型EVトラックで市場囲い込みなるか
新モデル、顧客の声を基に改良
三菱ふそうトラック・バスが、全面改良し3月に発売した新型電気自動車(EV)トラック「eキャンター」で攻勢をかける。2017年に国内初の量産型EV小型トラックを投入した「フロントランナー」として顧客の声を基に改良を重ね、従来一つだった型式を国内で28に拡充した。操作性や安全を追求した機能も追加し、環境対応車に対する補助金などの追い風を受け、市場囲い込みを狙う。競合もEV投入が進み、競争は激化している。(大原佑美子)
従来モデルは車両総重量7・5トン級の1車種。ホイールベースが3400ミリメートルで、容量13・8キロワット時のリチウムイオン電池(LiB)を6個搭載し、航続距離は約100キロメートルだった。
しかし同じ小型トラックユーザーでも、荷物を1トン載せたい企業と3トン載せたい企業とでは使い方が異なる。「モデルをそろえ、よりニーズに合った使い方をしてほしい」(三菱ふそう)との思いから、車両総重量、キャブ(運転室部分)幅、バッテリー搭載数、架装オプションなどの選択肢を増やした。
新型eキャンターは車両総重量5―8トン級を展開し、キャブ幅は標準、広幅、中型トラック「ファイター」同等の拡幅の3種をそろえた。ホイールベースも複数あり、小回りが利くラストワンマイル(目的地までの最終区間)輸送向けの2500ミリメートルから、中型車クラスの4750ミリメートルまでがある。
ホイールベースに応じバッテリーを1個から最大3個まで搭載できる。3個搭載した拡幅キャブでは、航続距離324キロメートルが可能となった。動力を伝えるプロペラシャフトをなくし、アクスル、リダクションギア、モーター、インバーターを一体化したコンパクト構造でバッテリー搭載の柔軟性を実現した。
操作性や電費、安全性能も向上した。三菱ふそうの喜連川研究所(栃木県さくら市)で実車走行試験などを行うスタッフは、新型車両で新たに4段階の切り替えが可能な回生ブレーキの活用で「(1・8トンの貨物を積載した状態で)峠道などブレーキを踏まずに安定して降りられるので運転が楽」と説明する。「通常の走行だと完全停止する時くらいしかブレーキを踏まないで済む」(同スタッフ)ため電費性能が良い。
また航続距離延伸の課題だったキャブ内の暖房もステアリング、シート、足元、ガラスの局所ヒーター機能で改善。被害軽減ブレーキ機能を有する左折時巻き込み防止機能や、衝突被害軽減ブレーキは標準搭載した。災害時などに車載バッテリーからV2X機器を介した外部給電にも対応した。
日本自動車工業会(自工会)が22年度に実施した「小型・軽トラック市場動向調査」では「環境意識の醸成と燃料価格高騰の背景から、小型・軽トラックで次世代環境車の導入意向が増加した」とし、三菱ふそうにとって追い風が吹く。しかし、13日現在で国内累計で約170台のeキャンターを販売した三菱ふそうに対し、EV小型トラック後発の日野自動車は22年にヤマト運輸に500台採用が決まるなど競争も激化。充電設備不足など、EVトラック普及にはインフラ面の課題も残る。
従来型eキャンターは海外での採用実績も増えつつある。今回のラインアップ拡充で需要をどう取り込めるかが今後の焦点だ。