「蓄電・電解」「半導体」…DXで材料開発に挑む
データをつくって、ためて、使う。この三つを実践する事業がある。文部科学省の「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」(DxMT)だ。蓄電・電解材料や半導体など五つの材料開発プロジェクトが走る。データ連携で横串を刺し、手法やノウハウの展開を図る。
「まずは分野ごとにDX手法を確立し、分野横断の事例を出していきたい」と、物質・材料研究機構統合型材料開発・情報基盤部門の出村雅彦部門長は説明する。DxMTでは東京大学(代表機関)の蓄電・水電解触媒、物材機構の磁性材料、東京工業大学の半導体、東北大学の構造材料、京都大学のバイオアダプティブ材料の五つの研究開発が進む。
学術界の連携機関に加え、素材や自動車などの分野から38社がコミットする。横串を刺すためにデータ連携部会を設け、物材機構の出村部門長が代表を務めている。
同部会には全機関が参画。研究手法やツールを分野横断で共同開発し共用化する。理論計算や計測技術の研究者は材料分野に縛られずにチームを行き来し、各拠点でデータ人材を育成する。予算を得た後はバラバラになりがちな学術界を束ね、相乗効果を狙う。
例えば磁性材料分野では、すべてのデータを集めて一つの巨大なデータテーブルを作る。X線分光スペクトルと物性値などから人工知能(AI)技術で特徴量を抽出。永久磁石と軟磁性材のように材料は違っても共通する特徴量を探し、性能予測モデルの学習データとする。
蓄電水電解触媒分野では学習済みのAIモデルや抽出後のデータなどを解釈可能な状態で提供する計画だ。東大の杉山正和教授は「データに付加価値を与えてから提供する」と説明する。ただデータを共有するのではなく、材料研究者の知恵を載せる。
それぞれの研究チームには、物材機構の研究者が加わっている。文科省の江頭基参事官は「研究チームと連携部会をつなぐ役割を担う」と説明する。こうした知見を共有する仕組みは研究者にとって利点が多い。材料研究者が情報分野の技術革新を追いかける負荷を分散できる。AIを使いこなすまでの苦労も、共有することで軽減できる。
そして蓄積する手法自体が産学連携の求心力になる。材料研究者が向き合う業界は違っても手法や協業スキームは転用可能だ。出村部門長は「各分野を巡ってメソッドを発掘し整理する人材が重要になる」という。材料開発の実践を通して人材育成を急ぐ。