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半導体・次世代電池向けで需要拡大…「フッ素化学品」で上がる懸念の声

半導体・次世代電池向けで需要拡大…「フッ素化学品」で上がる懸念の声

双日はメキシケムフローと共同で26年度に北九州市でフッ化水素製造を始める

ユニークな特性からさまざまな産業で使われるフッ素化学品。半導体や次世代電池など向けに需要が拡大しており、経済安全保障の観点からもサプライチェーン(供給網)の強靱(きょうじん)化が急がれている。フッ素化学の動向や各社の課題認識、対応策などを追った。(友広志保、大川諒介)

原料輸入、中国依存低減へ

「半導体関連の対中輸出管理規制で、蛍石が(中国による)報復対象になることも考えられる。そうした場合、(日本の)半導体製造に影響が出るのでは」。化学メーカー幹部から、このような懸念の声が上がっている。

フッ化水素から作られるフッ素化合物は、半導体を製造する工程でのエッチングや洗浄用のほか、次世代電池の電解質や半導体製造装置の樹脂部品などにも使われ、先端分野のデバイスには欠かせない戦略品。半導体製造に欠かせない高純度フッ化水素は日本企業が高いシェアを握り、このほど韓国向け輸出管理の厳格化措置緩和が決まったことも話題となった。

化学用途で使う蛍石(双日提供)

ただ、その川上では中国への依存度が大きいのが現状だ。フッ化水素の原料となる、フッ化カルシウム含有率の高い化学用蛍石は、中国からの輸入がほとんど。フッ化カルシウムが97%を超える蛍石はアシッドグレードと呼ばれ、国の統計によると輸入相手国(14―22年)は中国が79%で2番手のベトナムの20%を大きく引き離す。

「フッ化水素の一部国産化により、サプライチェーンの抱える課題やニーズの高まりに応える」―。双日は2月、メキシコ企業と共同でフッ化水素を北九州で生産することを発表。その会見の席で双日の藤本昌義社長は、こう強調した。双日はメキシケムフロー、同社日本法人のメキシケムジャパン(東京都品川区)と共同で26年度にフッ化水素製造を始める計画で、北九州市との立地協定に基づき、響灘臨海工業団地(北九州市若松区)にプラントを設ける。

生産規模は年4万―5万トンで、国内需要の30―40%をカバーできる。しかし、それ以上に重要なのは、メキシケムフローが所有する鉱山からメキシコ産蛍石を輸入し、フッ素化合物の出発原料にあたるフッ化水素を日本で安定的に製造することだ。メキシケムフローは化学用蛍石や、化学用蛍石を原料とするフッ化水素を効率よく製造する技術を確立済み。同じ蛍石でも原産国で微妙に成分が異なり、中国産蛍石に頼ってきた日本企業がメキシコ産蛍石からフッ化水素を製造するのは技術・コスト面でまだまだハードルが高いとみられるため、半導体サプライチェーン強靱化への貢献度は大きい。

ある化学メーカー幹部は「農薬製造時に出るフッ素(化合物)など新たな供給源を作る必要がある」と原料調達の多様化を進めていると明かす。経済安全保障の観点からも、川上の原料生産・調達体制の強化は重要度が増している。

電線被覆材やライニングなどに使用されるETFE

AGCもフッ素関連のサプライチェーン強化を重要課題として位置付ける。21年、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)の製造能力を20年比1・5倍に増強。それに合わせ、フッ化水素やフルオロカーボン類など原料面の生産能力も高めた。

同社は千葉工場(千葉県市原市)と鹿島工場(茨城県神栖市)でフッ素化学品を生産し、原料を含む一貫生産体制を国内に持つ。フッ素樹脂製品に使用するフッ化水素も自社製造が中心。さらなる需要増を見込み、約350億円を投じて、25年をめどに千葉工場の生産設備を増強する。その一方で10年にレアアース(希土類)をはじめとする輸入鉱物資源価格が急騰したことをきっかけに、調達先の多様化を進めてきたという。

ダイキン工業は19―23年度に中国や米国、韓国などの拠点に約1000億円を投じ、フッ素化学品の生産体制を強化する。半導体やEVの旺盛な需要を取り込む。

進む廃材再生、「循環促進」技術開発カギ

リサイクルも原料調達リスクや拡大するフッ素化学品市場への対応策の一つだ。

これまで業界では使用済み薬液などから蛍石の主成分であるフッ化カルシウムを回収するケミカルリサイクルや、フッ素のガス回収・再利用などが行われてきた。ただ製品から直接、資源を回収・再利用する仕組みが存在せず、取り組みは極めて小規模だ。こうした中、廃材を活用した新しいリサイクル技術が開発されている。

hide kasuga 1896(東京都港区、春日秀之社長)は、フッ素樹脂の中で最も使用量の多いPTFE(四フッ化エチレン樹脂)のマテリアルリサイクル技術を開発し、特許を取得した。PTFEは耐熱性や耐薬品性、絶縁性などの特徴からシール材や表面処理などに広く使われる。ただ焼結後の再成形ができないことから、多くの端材や切削くずなどが埋立廃棄物として処理されている。同社はこの廃棄PTFEを砕いた粉末に、乳化重合したバージンPTFEの分散液を添加し焼成する方法でリサイクル材を製造。重量比で乳化液を50%添加した場合、強度は新材の7割程度に落ちるが、耐薬性などは同等の性能を発揮できるという。

現在は素材メーカーと連携し、物性評価や品質安定化に向けた研究に取り組んでいる。春日秀之社長は「PTFEは産業用途が大半で回収が比較的容易な素材。リサイクルの普及促進には、素材メーカーに加え、川下の需要家を含めた幅広い連携が必要だ」と強調する。今後はメーカーと連携しながらリサイクル材に代替可能な用途を探索し、量産を見据えたパイロットプラントの建設を目指す。

一方でETFEなどの溶融成形可能なフッ素樹脂は、再成形品の活用が見込める。AGCは顧客とともに各種フッ素樹脂のリサイクル材の評価を進め、高いシェアを持つETFEを中心に回収・再利用を拡大するための仕組み作りを目指す。

同社の西山大輔フロロポリマーズ事業部長は「リサイクルに対する顧客の関心は高まっている。ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルの両面で最適な技術を活用したい」と指摘する。川上での技術開発と、その普及が循環促進のカギを握る。


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日刊工業新聞 2023年04月06日

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