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電帳法・インボイス制度は何が変わった?「令和5年度税制改正大綱」発表

10月に始まるインボイス制度。2022年1月に施行した電子帳簿保存法(電帳法)とあわせて企業が対応に追われる中、22年末に「令和5年度税制改正大綱」がまとまり、要件が緩和される見込みとなった。大綱を読み解きながら、企業は「結局、いつまでに何をしなければならないのか」について、ポイントを解説する。

【電帳法】要件緩和によりハードルは下がるが、電子保存は今後も必須

電帳法は22年1月1日に改正施行した。最大のポイントは「電子で受け取った請求書は電子での保存を必須とする」ところにあった。しかし、これまで電子請求書を書面に出力して紙で保存・管理していた企業が多く、なかなか認知や対応が進まなかったため、「やむを得ない事情かつ出力書面の提示又は提出ができる場合は、保存要件に関わらず保存可能」とする宥恕措置(※)が設けられた。期間は2年間で、2023年末で宥恕期間は終了となる。

※宥恕:本来はやらなければならないが、「許容」すること

令和5年度税制改正大綱では、宥恕措置と切り替わる形で、2024年1月1日以降は新たな猶予措置の設定が示された。

《電帳法の新たな猶予措置》
 電子で受け取った請求書について、原則は「保存要件に従って電子データを保存」することが求められる。しかしシステム対応が間に合わないなど、保存要件を満たせなかった事業者は、次の条件のもと猶予措置が適用される。

●税務署長が「相当の理由」があると認める場合 (「相当の理由」の解釈については明らかにされておらず、今後通達などで明らかにされていく見込み)
●税務調査等の際に①データを出力した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)を提示・提出できるようにしている、かつ、②データのダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合

これらの条件を満たす場合には、手続き不要で猶予措置が適用される。ただし猶予措置が適用されても、電子データの保存自体は必要とされることに変わりはない。

《検索機能の確保要件の緩和》
 電帳法では、請求書データの電子保存における保存要件を2つ定めている。すなわち「真実性の確保」と「可視性の確保」だ。中でもハードルが高い要件は、可視性のうち、「検索機能の確保」である。「日付・金額・取引先名称」の3要素で容易に検索できる状態で保存しなければならず、これをいかに業務フローの中に組み込むかが企業の悩みどころだった。

このハードルを越えるべく、一定の条件下において、検索要件のすべてを不要とする緩和策が講じられた。

●売上高が 5,000 万円以下である保存義務者
または
●電子データの出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている保存義務者

これらに該当し、かつ、税務調査などにおいて電子データのダウンロードの求めに応じる場合は、検索要件はすべて不要となる。

《スキャナ保存要件の緩和》
 紙の請求書をスキャナで読み取り、電子で保存する場合の要件について、「読み取った解像度等および大きさ情報の保存」、「入力者当情報の確認」がいずれも不要となる。「スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持」は重要書類のみに限定されることになった。より簡素化され、保存する際のハードルが下がったことから、これまで工数の多さに懸念があった企業も取り組みやすくなったと言えるだろう。

以上が電帳法における主な緩和ポイントである。いずれも「電子保存をしなくてよい」わけではなく、「電子保存をするために、そこに至るまでのハードルを下げた」施策となっている。企業の状況に応じて中長期的な目線で対応していくことが必要だろう。

【インボイス制度】小規模事業者の負担および中小企業の事務負担軽減へ

インボイス制度に関しては、「基準期間の課税売上高が1,000万円以下のインボイス発行事業者が課税事業者となった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する(3年間の期間限定措置)」など、主に小規模事業者に対する負担軽減措置が盛り込まれたことがポイントだ。

また、一定規模以下の事業者であれば、1万円以下の少額取引についてのインボイスを不要とし、帳簿のみで仕入税額控除が可能となる(6年間の期間限定措置)。

“一定規模以下”とは売上げ1億円以下を指すため、中小規模の事業者であれば多くがあてはまるだろう。事務負担を軽減することで、インボイス制度対応のハードルを低くすることが目的だと考えられる。

事務負担の軽減でいえば、少額の返還インボイス(値引きや返品を行った際に発行しなければならないインボイス)についても、1万円以下の値引きや返品であればインボイス交付義務を免除する措置が講じられた。

事務負担の軽減策は講じられたものの、大きな要件の緩和などの対象になるケースは少ないため、引き続き多くの企業では対応が求められるといえるだろう。

制度開始まで残り8ヵ月。業務フローの再構築は計画的に

ここで紹介した税制改正大綱の内容は、早ければ3月にも政省令が公布される。電帳法、インボイス制度ともに緩和策が示されたことは確かだが、「電子請求書は電子で保存することが原則」という事実は変わらない。インボイス制度の開始は10月に迫っており、業務フローの再構築は一朝一夕にはできないため、計画的に進めていくことが必要だ。今後も法令や通達、一問一答などを注視しながら、いかなる状況になっても対応できるよう、自社の状況に合わせて積極的に準備を進めておきたい。

柘植 朋美:Sansan株式会社 Bill One Unitプロダクトマーケティングマネジャー。
新卒で大手人材会社に入社し、海外事業企画に従事。その後、大手ERP会計ベンダーにてコンサルタント業を経て、2016年にSansanへ入社。エンタープライズ領域でのカスタマーサクセスマネジャーを3年経験後、新規事業の開発を担当。現在はBill Oneのプロダクトマーケティングマネジャーとして、電子帳簿保存法やインボイス制度の啓発活動にも力を入れている。

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改正・電子帳簿保存法の全容と取り組むべきこと
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請求書や契約書などの国税に関連する帳簿類・証憑類を電子で保存する際のルールを規定した「電子帳簿保存法(電帳法)」が2022年1月に改正施行します。この改正により「メールで受け取ったPDFの請求書を印刷して経理に提出する」といったごく一般的に思える請求書業務のフローが変わることになるかもしれません。今から知っておきたい電帳法改正のポイントを公認会計士の柴野亮さん(Sansan株式会社 Bill One Unitプロダクトマーケティングマネジャー)が解説します。

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