サンゴ礁の飼育実験手法確立、産総研の挑戦
沿岸生態系は、生物多様性に富み、水産資源や観光資源などの生態系サービスを提供している。人間活動と密接な関係にあるため、さまざまな産業活動の影響を受けやすく、地球温暖化や海洋酸性化などの地球的規模の環境変化も重なって、生息する生物の種や個体の数が急速に減少した地域もある。
沿岸生態系の中でも、サンゴ礁は豊かな生物多様性で知られている。産業技術総合研究所(産総研)は生態系の基盤を形作る造礁サンゴ類を対象として、生育状況の調査や飼育実験、遺伝子解析などの多角的な視点から、地球温暖化や海洋酸性化などがもたらす影響を研究している。
サンゴ礁生態系の生物多様性は、地域的規模の環境変化によっても失われつつあることが問題となっている。その原因の一つに畜産や農業などに由来する栄養塩の流入が指摘されている。
産総研は、北里大学・琉球大学・国立環境研究所との共同研究プロジェクトで、サンゴへの海洋酸性化や栄養塩の影響を調査した。その中で、サンゴの一斉産卵時に得られた稚サンゴを用い、環境要因を厳密に制御できる飼育実験手法を確立した。研究の結果、酸性化海水およびリン酸塩がサンゴの生育を阻害することが明らかとなった。
生物多様性が急速に失われつつあるため、環境の回復が必要である。我々は、サンゴだけでなくシロギスやウバガイなどの水産生物にも対象を広げ、海の貧酸素化や化学物質の影響も考慮し、多様な生物生育環境を再現した実験を進め、多角的かつ緻密な環境影響評価を進めている。
生物多様性評価に有効な環境DNAによる調査も進める一方、産総研では飼育実験による環境ストレスの評価も実施してきた。こうした研究を通じて、人間の活動が生物に悪影響を与えずに、人と自然が共存していくための方策を得ることができる。
産総研 地質情報研究部門 海洋環境地質研究グループ 主任研究員 井口 亮
生物群集や個体群の形成・維持機構、環境応答機構の解明を進めている。このような生物と環境が織りなす多種多様な素過程を明らかにして、生物資源保全・活用のために、さまざまな視点で俯瞰(ふかん)し体系化して、研究成果の応用方法を導き出すことを目指している。
日刊工業新聞 2022年12月08日