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「太陽光発電量予測」に商機あり、気象ビジネスが成長へ迎えた転機

「太陽光発電量予測」に商機あり、気象ビジネスが成長へ迎えた転機

太陽光発電量予測サービスを運用するウェザーニューズ環境気象事業部

太陽光発電量予測への関心が高まっている。FIPの導入で、発電事業者が収益を最大化するには気象情報が欠かせない要素となったためだ。日本気象協会、ウェザーニューズが太陽光発電量予測サービスを提供しており、脱炭素に向けた再生可能エネルギーの普及で一段の成長が期待される。(八家宏太、熊川京花)

気象協会、「ENeAPI」導入実績2倍

日本気象協会がエネルギー事業者向けに展開する「ENeAPI(エネエーピーアイ)」が好調だ。太陽光発電出力や電力需要量、電力取引価格、天気や気温など同社独自の予測データを応用プログラムインターフェース(API)で提供する。導入件数は2021年度末時点と比較して22年度上期末時点で約2倍になった。

ENeAPIの技術力の下地となるのが、従来より提供してきた電力需要予測や太陽光発電出力予測サービスなどだ。事業本部環境・エネルギー事業部エネルギー事業課再生可能エネルギー推進グループの榎本佳靖グループリーダーは、「1度C気温が違うだけで、原子力発電所1基分である100万キロワットの電力需要予測の誤差が生じる場合もある」と言い、高精度な予測の追求を続けている。

1キロメートルメッシュや5キロメートルメッシュで日射量を予測できる(ウェザーニューズのサービスの画面)

電力需要予測サービスは、当日から3日後までの電力需要量を30分ごとに予測。需要実績や独自の気象予測データなどをもとに、人工知能(AI)を使い顧客別に予測システムを構築する。システムは最新データで毎日更新。精度が評価され大手電力会社が管理する日本の電力需要量の約4割を予測している。

太陽光発電出力予測サービスは、独自の気象モデルで日射量と発電出力を1キロメートルメッシュで78時間先まで予測。24年までの新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業では日射量予測の大外しを低減する。

榎本グループリーダーは、日本の再生エネ導入拡大に向けて「データプラットフォーマーの役割を果たしたい」と話す。システムベンダーと電力会社の間に立ち、気象コンサルタントとして予測データの使い方を提案。高精度データを武器にサービス開発に貢献する。

ウェザーニューズ、再生エネ運用支援 幅広く提供

ウェザーニューズは太陽光発電量予測サービスを大規模発電事業者から小規模発電事業者まで幅広く提供し、再生可能エネルギー発電の運用を支援している。培ってきた気象情報と気象予測技術を生かし、独自の予測モデルを構築した。発電実績がある太陽光発電パネルの発電量予測だけでなく、新設する太陽光パネルにも対応できるサービスを提供するなど、幅広いニーズに対応している。

同社は1986年に創業以来、海上・陸・空の気象情報コンテンツを開発・提供してきた。

発電量予測には独自開発したAI統計モデルと物理モデルを使用。AI統計モデルは稼働実績がある太陽光パネルの電力予測に使用する。日々の1キロメートルメッシュの日射量予測とパネルの発電量のデータを組み合わせてAIが学習し、発電量予測モデルを構築する。

物理モデルは新設の太陽光発電所に使用する。パネルの角度や方角、電流の変換効率、耐熱性などからモデルを構築して予測発電量を計算。半年から1年間データを蓄積し、AI統計モデルへ移行していく仕組みだ。

これまで同サービスが利用されるケースは、FIPにおける市場変動での利益率の傾向や、ペナルティーのリスクの見極めなどを含め価格想定実証が中心だった。23年は「商用化が進んでいくだろう」と同社環境気象事業部セールス&マーケティンググループの武田恭明チームリーダーは分析する。

今後、パネル敷設用地の減少などを背景に「小規模の発電事業者の増加」(武田チームリーダー)を見込む。これに対応し、発電力に応じたプラン設計やサービス提供までの速度向上に取り組み、普及を加速する。

FIP移行 買取価格、市場動向で変動

太陽光発電量予測サービスが注目される背景には、再生エネの固定価格買取制度(FIT)からFIPへの移行がある。従来のFITでは電力会社などが固定価格で再生エネを買い取るのに対し、FIPは買取価格が市場動向で変動する。

FITでは一般送配電事業者が、多くの発電事業者の再生エネ電源の発電量を予測していた。だがFIPでは、発電事業者自らが発電計画を作る必要がある。予測誤差はインバランス料金としてペナルティーになるため、再生エネ電源を扱う事業者は従来より精密な需要予測が欠かせず、気象情報の重要度が高まっている。日本気象協会の榎本グループリーダーは「電力と気象には密接な関係がある。電気事業者は『天気事業者』と呼ばれるほど」と話す。

また、発電事業者をまとめるアグリゲーターらは、発電量予測の代行サービスや仮想発電所(VPP)などを活用して電力融通を最適化するシステム開発に取り組んでおり、そこに気象データを活用することもある。

脱炭素で需要拡大

米調査会社のREPORT OCEANによると21年の世界の気象予測サービス市場規模は17億9000万ドル(約2180億円)。22年から30年まで年間10・4%の成長率で拡大し、22年に44億ドルに達すると予測する。

FIP導入が太陽光発電量予測サービスへの関心が高まる契機となった(イメージ)

国内で気象ビジネスの大きな転機になったのは、1993年に政府が実施した気象業務法の大幅改正。いわゆる「天気予報の自由化」により、民間事業者も一般向けに独自の天気予報を発表できるようになった。気象庁の調査では予報業務許可事業者の気象関連事業の総売上高は86年の約120億円から法改正のあった93年には281億円に増加。96年に321億円と300億円の大台を突破した。

帝国データバンクが2021年にまとめた予報業務許可事業者(気象・波浪、地震動)36社の経営実態調査では、気象・波浪予報事業者22社の総売上高は約366億円に増加。地震動の許可事業者14社の総売上高は約49億円で、合算すると400億円超となった。自然災害の激甚化などで需要は確実に高まっているが、課題の一つは気象データの活用企業がまだまだ少ないこと。

一方、22年4月にはFIPが導入され、気象情報の重要性が高まった。脱炭素化の加速で生まれるさまざまなニーズが、気象ビジネスの市場拡大を後押しするのは確実だ。

日刊工業新聞2023年1月23日

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