今年度発行額5兆円視野…「SDGs債」が急増する背景
環境・社会課題解決を目的に発行するSDGs(国連の持続可能な開発目標)債が国内で急増している。2022年度は12月までに3兆4000億円を超え、発行額は過去最高を更新した。このペースが続けば22年度末までに5兆円近い発行額の着地が見えてくる。低炭素社会への移行を目的としたトランジションボンド(移行債)など、新たなSDGs債が全体を押し上げている。(編集委員・川口哲郎)
みずほ証券によると、国内公募債市場のSDGs債発行実績は22年度(22年12月2日時点まで)が21年度比16%増の3兆4383億円となった。内訳は移行債が21年度比約7・4倍の3714億円、サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)が同2・8倍の3140億円となった。
SLBは事前に定めた環境目標の達成可否により条件が変化する債券で、20年度に登場したばかり。移行債も含む新しいSDGs債が発行額増加に寄与している。
環境関連事業向けのグリーンボンドや社会貢献事業向けのソーシャルボンドといった既存のSDGs債も、発行額の増加ペースは落ちていない。国内債市場に占めるSDGs債の割合は22年度上期で21%と21年度より9ポイント上昇した。
欧米中央銀行による大幅利上げなどで起債環境が悪化し、海外はSDGs債発行額が伸び悩んでいるが、国内では増加の勢いが衰えていない。その背景にあるのが国内投資家の層の厚みだ。
SDGs債は投資家が投資表明を行う慣習があり、投資表明の件数から投資家層が浮かび上がる。みずほ証券の調べでは、現在までに2400を超える投資家が投資表明を行い、このうち事業会社、財団、学校法人などの「諸法人」が59%を占めた。通常の債券は金融機関の投資家が全体のほとんどだが、SDGs債の投資表明件数で地域金融機関は23%に過ぎない。
みずほ証券の香月康伸SDGsプライマリーアナリストは「供給に対して需要が強く、国内市場で投資家拡大が続く」と分析する。
国内のSDGs債発行額は23年度も増加基調が続きそうだ。香月アナリストはSDGs債の新たなテーマとして「フード(食料)とブルー(海洋保護など)」を挙げる。海洋保護や水に関わる事業資金を調達する債券のブルーボンドは、22年10月にマルハニチロが初めて発行した。事業会社による発行増加が期待される。ロシアのウクライナ侵攻を機に食料の安定調達も世界の関心が集まっている。
SDGs債はこれまで脱炭素貢献の使途ばかりが前面に出たが、今後は生物多様性など新たな社会課題解決に資するファイナンスへと幅が広がりそうだ。