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狙うは高価な「金」か、海洋機構・IHIなどが探る海底資源開発の新たな道

狙うは高価な「金」か、海洋機構・IHIなどが探る海底資源開発の新たな道

熱水噴出孔(左)と黒鉱養殖装置(海洋機構提供)

「鉱床」次々と発見

世界で資源不足が深刻化する中、海底鉱物資源の活用は持続的発展に欠かせない。世界第6位と広大な日本の排他的経済水域(EEZ)には、銅や亜鉛、金、銀などの金属が沈殿した「海底熱水鉱床」が多く存在する。だが、深海での資源開発は高コストで採算が合わず、実用化は困難なままだ。カギを握るのは海底での鉱物“養殖”か、それとも狙うは高価な「金」か―。海洋研究開発機構IHIなどが新たな海底資源開発の道を探る。(曽谷絵里子)

海底熱水鉱床は2008年の海洋基本計画で約10年後の商業化を目指す方針が盛り込まれ、18年には世界初の連続揚鉱にも成功。無人探査機などの進歩も後押しし、次々と鉱床は発見されるも、経済性確保はいまだ難しく、研究主体の開発が中心だ。

そうした中、期待されたのが、海底掘削孔を利用し人工的に金属資源を作り出そうという、海洋機構や東京大学などによる「黒鉱養殖プロジェクト」だ。

人工熱水噴出孔の上に陸上黒鉱鉱床以上の高品位のチムニーが急成長したことから、このメカニズムを応用。地球深部探査船「ちきゅう」で計3基の養殖黒鉱装置を設置し、回収した結果、亜鉛を精鋼レベルの約50%含む鉱石を得られた。

「海水が混じらない条件にすることで高品位の鉱物だけを沈殿させられた」(海洋機構の野崎達生主任研究員)ため、不要な生成物ができず、従来より低コストで環境負荷も低い海底資源を獲得する新しい道を開いた。

それでも商業化を考えると「人工熱水孔を多く掘り、維持していくのは困難」(同)。

そこで注目したのが15年に東大の研究チームが発見した伊豆諸島・青ケ島沖海底の熱水噴出孔だ。陸上の平均的な金山では鉱物1トン当たり金3グラム程度とされるが、ここで採取された鉱物は17グラム以上含んでいた。

高濃度の秘密は温度にある。ここの熱水噴出孔は水深700メートル程度と他の噴出孔より浅く、熱水温度は240―260度Cほど。より高温だと銅に富むが、「金や銀が沈殿しやすくなる温度」(同)だという。

金を効率的に回収するため、IHIが開発した、原始的な藻の「ラン藻」を用いて金を吸着するシートを利用。青ケ島の熱水噴出孔に設置したシートは今夏にも回収予定で、その成果が期待される。

さらに、野崎主任研究員はこうした技術を「陸上の温泉水や鉱山廃水などに応用していく」として、IHIとともに秋田県の玉川温泉でも金吸着の実験を進めている。

温泉水に含まれる金はppt(1兆分の1)レベルと低いにもかかわらず、7カ月設置したシートには1トン当たり最大30グラムの金が吸着。新たな資源回収の可能性を見せている。


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日刊工業新聞 2023年01月09日

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