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音楽の世界から産業用へ、伊藤忠が事業化に挑む「CNF成形板」の可能性

“象牙の質感“代替素材に
音楽の世界から産業用へ、伊藤忠が事業化に挑む「CNF成形板」の可能性

象牙に近い音を奏でるCNF箏爪

伊藤忠商事は利昌工業(大阪市北区)と共同で、セルロースナノファイバー(CNF)成形板の用途を開発する。箏爪からスタートし、2025年にかけて楽器部品として展開。認知度を高めた上で30年までに建材や輸送機の構造材として事業化する計画だ。音楽の世界から産業用へと小さく産んで大きく育てる。(編集委員・中沖泰雄)

CNFは植物の主成分であるセルロースを処理してナノメートル(ナノは10億分の1)サイズまで解きほぐした素材で、軽量性・強度性に優れる。これを利昌工業の木材や紙などを基盤とし、樹脂などをプレスする技術で、板状に成形したのがCNF成形板だ。

欠けたり、剥離したりしないように樹脂を含浸させており、アルミニウムの約半分の重量でほぼ同等の強度を持つ。象牙に近い質感を持つことに着目し、伊藤忠商事と利昌工業は共同で象牙代替素材として開発を進めていた。

背景には90年にワシントン条約で象牙の国際取引が原則禁止されたことがある。日本では法規制に基づく管理下に限り国内取引が認められているが、今後は入手困難となる懸念がある。そのため象牙代替素材が必要とされていた。

このCNF成形板を三島屋楽器店(新潟県長岡市)が従来の象牙加工技術で製造したのが今回の箏爪だ。若手箏曲家のLEO氏は「(象牙と比べて)まだ(素材として)少し硬さを感じるが、音色の違いはすぐには分からない」と評価する。

同社は自社の電子商取引(EC)サイトと全国の和楽器店で販売を始めており、福山工場(広島県福山市)の中嶋和輝工場長は「150組を製造しており、半年間で完売したい」としている。

価格は1組が1万2000円(消費税抜き)と、象牙の箏爪の5000―1万円と比べると高いが、海外では多くの国が象牙の輸出入や国内流通が禁じられているため「海外展開も期待できる」(伊藤忠商事)と見る。今後は三味線の撥(ばち)やバイオリン、ギターなどの部品での事業化も検討する。

その先にあるのが建材、自動車や航空機、船舶などの構造材としての事業化だ。炭素繊維がゴルフシャフトやテニスラケット、釣りざおなどスポーツ・レジャー用から導入が進んだように、CNFでも同じような展開を期待している。

すでに伊藤忠商事は出資する大建工業を通じてCNFによる建材開発に取り組んでおり、産業用での展開を進めている。これまでの素材をCNFに切り替えると、どのようなメリットがあるのかを訴求することが普及のカギを握る。

日刊工業新聞 2022年12月21日

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