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石化産業“潮目“変わる、エチレン生産低迷の深刻度

石化産業“潮目“変わる、エチレン生産低迷の深刻度

14―16年にエチレン生産設備が3基停止し、需要に見合う規模となっていたのだが…(イメージ)

石油化学品生産の指標となる基礎化学品「エチレン」の国内生産設備稼働率が低迷している。8―10月は2013年11月以来の3カ月連続の90%割れとなった。中国経済の停滞をはじめ複数のマイナス要因が重なったためで、世界経済の回復に伴い回復するとの見方が大半ながら、国内体制の課題もある。中長期での再編の必要性を指摘する声は強い。(梶原洵子)

石油化学工業協会(石化協)によると、10月の国内エチレン製造プラントの平均稼働率は84・8%(前年同月比8・9ポイント減)。7月の90%を挟み、5―6月も2カ月連続で90%を下回っており、低調な状態が続く。「夏以降にマイナス要因が重なり、エチレン生産が制約を受けた」(岩田圭一石化協会長〈住友化学社長〉)。

具体的には、世界経済の減速と、中国のゼロコロナ政策に伴う経済停滞、内需低迷のマイナス要因が重なり、景気が悪化して石化需要が減退した。日本で生産された化学品は直接、間接の両方で中国へ輸出され、さまざまな製品の生産に使われているため、中国経済停滞の影響は特に大きい。足元で回復への明るい兆しも乏しい。

厳しい経済環境の中で、80%台の稼働率はすぐに国内石化生産の危うさを示すほどの水準ではない。だが、20年2月まで6年以上も90%超の高稼働が続いていた状況からは明らかに変わった。14―16年にエチレン生産設備が3基停止し、需要に見合う規模となったが、2―3年前から健全性を維持するには次の再編が必要との声が石化業界内でささやかれ始めていた。

最初に国内最大手の三菱ケミカルグループが21年12月の記者会見で石化事業の分離・独立の方針を打ち出し、再編の議論の口火を切った。約1年が経過し、業界内で同社に呼応した発表はないが、再編が必要との考えはおおむね共通している。別の化学大手幹部は、足元の国内エチレン生産設備の稼働率について「そのうち90%台に回復するが、また90%割れとなるだろう」と、潮目の変化を指摘する。

原燃料価格の高値が続けば、輸入資源に頼る国内石化産業の競争力は相対的に弱まる。また将来リサイクルが拡大すれば、ナフサから製造する石化製品の需要は減少するからだ。石化製品を購入する顧客企業が地産地消を志向する傾向も基本的には続くだろう。

ただ、どの企業も再編は必要と認識していても、自社のエチレン生産設備は継続したいため、再編議論はかなり難しいものとなる。ジレンマを乗り越え、国内石化産業が継続できる体制を考えられるのか。国による議論の場づくりや法整備などを通じた推進も求められる。


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日刊工業新聞 2022年12月8日

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