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沖縄で医療機器を開発するコロンビア発スタートアップの正体

沖縄で医療機器を開発するコロンビア発スタートアップの正体

沖縄科技大のプログラムを通じて、パーキンソン病患者向け歩行支援装置を開発するチーム「anda(アンダ)」のマリア・バルブエナさん(左)とカルロス・レイさん

コロンビアのスタートアップが沖縄で開発に汗をかいている。チーム名はスペイン語の「進め」を意味するanda(アンダ)。拡張現実(AR)を用いたパーキンソン病患者の歩行改善装置の製品化を目指す。沖縄科学技術大学院大学の起業支援事業に採択され、南米からの参加は初。沖縄科技大の手厚い支援や世界各地から研究者らが集まる環境を生かし、開発にアクセルを踏む。(西部・三苫能徳)

沖縄で研究を進めるのはマリア・バルブエナさんとカルロス・レイさん。本国でパーキンソン病患者向けの音声プログラムを提供する企業から開発チームとして来日した。開発するのはAR機能で歩行を支援する眼鏡型装置「ARグラス」だ。

パーキンソン病は脳内のドーパミン減少により手足の震えや筋肉の固縮を引き起こす。自然治癒や完治は期待できないとされる。

ただ、リズミカルな音を聞くことでドーパミンの発生を促し、スムーズな歩行につながることがわかっている。「歩くことで脳の神経を刺激し、病状の進行を遅くできる」(バルブエナ氏)ため、支援ツールを開発する。

ARグラスをかけると現実の視界の上に歩幅を示すマーカーや進行方向を示す矢印などを投影できる。患者は足を踏み出しやすくなり、音と組み合わせたエクササイズとして新たなソリューションを生み出す。レンズ部分の改良などで沖縄科技大の研究との協業も見据える。

andaが参加するのは沖縄科技大の起業支援事業「イノベーションスクエア・スタートアップアクセラレータープログラム」。世界中から希望者を募り、沖縄で技術系ベンチャーを振興する事業で累計9チームが参加した。2022年度で5年目になった。

今回は74チームの応募があり、andaのほか、肌による温度の錯覚でかゆみなどの皮膚疾患症状を低減する機器を開発するチーム「大阪ヒートクール」も採択された。沖縄科技大の担当者は「沖縄で起業するサイクルをつくり、エコシステム(生態系)のエンジンの役割を果たす」と力を込める。

約9カ月の期間で大学の設備や経営資源の提供、資金や経営面の助言を含めて支援する。「学内に世界各地の人がいるので助けてくれる。英語のクラスも助かる」と、レイさんは開発だけでなくサポート環境を評価。「本国では海まで車で12時間。今は歩いてビーチに行ける」と生活環境も満足そうだ。

andaのARグラスは23年完成を見込む。患者の多い日本でまず販売する構え。日本では医療機器として販売を想定し、発売は25年頃を視野に入れる。

日刊工業新聞 2022年11月25日

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