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地域に貢献する企業が利益を生み出す 東北最大級の老舗倉庫企業が取り組むポジティブ・インパクトとは

経済的価値を生み出しながら社会的責任をいかに果たすかは、経営者にとって大きな課題になっている。近年は大企業を中心にサステナビリティの取り組みが広がっており、ステークホルダーとの関係も踏まえ、中小企業においても環境負荷低減など環境整備が求められつつある。
 こうした企業のプラスの貢献をもたらす変化や影響=ポジティブ・インパクトに注目した商工中金の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」は、SDGs(持続可能な開発目標)の三つの柱(環境・社会・経済)への企業の取り組みを評価し、サポートする枠組みだ。PIFの活用は持続可能な社会に貢献したいとの想いを持った中小企業にとって、自社改革の大きな手助けになる可能性を秘めている。

原点を見つめ直すきっかけに

白石倉庫(宮城県白石市)の太宰榮一社長にとって2022年5月4日は思い出深い一日になった。
 世間はゴールデンウィーク。連休といえども時に仕事になるのは経営者の宿命でもある。ただ、今年の「仕事」はいつもと違った。

「SDGsについてじっくり考えてみませんか」。商工中金の担当者の提案が頭にあった。

PIFの打診を受けたのは2022年1月。白石倉庫は宮城県に15カ所の倉庫を保有する。農産物や食料加工品、自動車部品など幅広い商品を扱い、穀物分野では東北最大級の定温での保管収容力を誇る。
 打診を受けて以降、「自社はどこを目指しているのか」「強みは?弱みは?」と考えを巡らせ、商工中金の担当者とも会話を重ねた。

宮城県内に業界最多となる15拠点の物流施設を保有

時間に余裕がある連休中は、自社の現状をじっくりと見直すのに格好の機会だった。SDGsの17の目標が描かれた紙を拡大印刷して、自社の取り組みがどこに当てはまるかについて考えた。「意識していませんでしたが、自社の取り組みの中にSDGsに当てはまるものが少なくありませんでした。例えば、『ジェンダーの平等』ならば、当社は管理職8人の半数がすでに女性です。特に比率を気にしていたわけではなく、能力で純粋に評価していた結果、期せずして実現していたんですね。また、フォークリフトの電動化や段ボール排出量削減などによるCO2低減をはじめ、環境面で当てはまる取り組みも多くありました。」

白石倉庫 太宰 榮一社長

社会的責任、環境経営、そして、SDGs。時代とともに概念や言葉を変えてきたが、社会への貢献と収益拡大の両立を目指す企業の取り組みの重要性は不変だ。1900年の創業以来の同社の綱領もそれを物語る。「徳義を本とし事業を経営して、以って、天下に模範たらんとす。」地方の福利を増進し、国家に還元することを明治以来目指してきた。

「PIFへの取り組みは当社の原点を思い出させてくれました。当社が何のために存在しているか、何が十分で何が足りていないかを改めて多角的に客観視するきっかけになり、非常に意義がありました。」

中小の経営者も社員に評価される時代に

PIFは持続可能な社会の実現を金融面で支える「サステナブルファイナンス」の一環だ。現行の事業の持続可能性を評価した上で、社会面、環境面、経済面でKPI(重要業績評価指標)を設定する。同社は「2022年3月の保管能力(約4万4000トン)を23年3月に約4万8000トンまで引き上げる(達成済み)」「バッテリー駆動のフォークリフトの全体に占める割合を29年までに5ポイント増の63%に引き上げる」などを目標に盛り込んだ。7年の融資期間中は定期的に到達度を確認し、サポートする。白石倉庫は、商工中金がサステナビリティの達成目標を具体的に設定して融資したモデル案件となった。

バッテリー駆動のフォークリフト

太宰社長は、取り組みの中でも「健康・衛生」や「雇用」など「働きやすい、働きがいのある職場づくり」に特に思いを込める。

倉庫業界では自動化が進むが、同社は多様な荷物を扱い、荷主の契約期間もばらばら。自動化には限界がある。「現場で額に汗して働く人たちの環境を整備することは喫緊の課題」と考え、数年前から人事評価のあり方を見直すなど取り組んできた。
 そうした中で、太宰社長が新たに力を入れるのが、「幸せデザインサーベイ」の活用だ。商工中金が2020年から手がける仕組みで、約100問のアンケートを従業員に答えてもらうことで、幸せ度を指数化する。
 「当社が社員の働きやすさを重視している点は社員も評価してくれていました。一方で、社員同士の議論の場が少ないなどの意見もありました」。こうした課題を今後、ワークショップなどで話し合い、融資期間中にKPIに設定した「幸せ指数」の達成を目指す。

もちろん、働く環境の整備も手を緩めない。荷崩れしにくい国産大豆用紙袋の実用化を2023年度までに目指す。作業効率を高めながら、安全性向上や労働負荷の軽減につなげる。同社はすでに、東日本大震災を教訓に地震が起きても崩れにくい箱型のフレコン(折り畳める柔軟な素材で造られた袋状の輸送容器)を業界に先駆けて共同開発した実績がある。一定の単位にまとめた貨物を崩さず輸送、荷役、保管できるのが特徴だ。

リサイクル折り畳みコンテナを検品中

PIFでは自社の評価が商工中金のホームページなどに掲載される。太宰社長は「社員は常に会社から評価されています。それならば、会社、経営者も社員から評価されるべきです。中堅中小企業が会社を客観視するのにありがたい枠組み」と期待を込める。

経営者は孤独だ。時に出口が見えず、ひとりで悩みがちだ。「商工中金さんが取り持っていただいた企業同士のつながりに助けられたこともあります。(商工中金が)常に当社を見てくれているという安心感は大きいですね。安心感があるからこそ、PIFをご提案いただいた時も取り組んでみようと思いました」と振り返る。

令和の時代は、情報にあふれ、ビジネスのトレンドの移ろいも速い。そうした時代だからこそ、企業と金融機関の関係性も改めて問われている。

「変化を恐れず、ともに挑戦」商工中金 仙台支店 小坂さん

「伴走してサポートしてまいります」と小坂さん(左)

白石倉庫さんはサステナブル経営への意識も高く、東北エリアを代表して食の安全・安定を支えている企業です。
 商工中金は、スタートアップ支援や事業再生支援、そしてサステナブル経営支援を強化し、取組みを高度化しています。白石倉庫さんが、融資期間中に今までにない新たな取り組みにチャレンジされることも当然想定しています。同社の変化に常に寄り添い、ともに挑戦してまいります(談)。

商工中金:https://www.shokochukin.co.jp/
 PIFについて詳しく知りたい方はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=ilDB68GTQzU
 「ニュースイッチ×商工中金 フリーペーパー」でも紹介中。ダウンロードはこちら

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