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日本の伝統を次世代につなぐ。「伴走型リブランディング事業」で目指す未来

「和える」矢島社長インタビュー
日本の伝統を次世代につなぐ。「伴走型リブランディング事業」で目指す未来

奈良商工会議所の工芸作家支援事業「Nara Crafts’ Cross Project」で奈良団扇をリブランディングする(右が矢島社長)

「日本の伝統産業を次世代につなぐ」をミッションに、0歳からのブランド品展開などを手がけている和える(東京都品川区)。このほど新しいビジネスとして伴走型リブランディング事業を始めた。その狙いはどこにあるのか。矢島里佳社長に聞いた。

―和えるのリブランディング事業について教えてください。

「和えるは、「日本の伝統を次世代につなぐ」ために生まれました。そのため、伴走型リブランディング事業の目的も、日本の伝統を次世代につなぐことにあります。日本全国の中小企業の多くは、地域の伝統を担ってきています。だからこそ、企業が心豊かに存続・発展していくことはとても重要です」。

「私たちが正解を示すのではなく、経営者との対話を通して企業やブランドの原点に立ち戻り、ブレない軸を整えた上で、ビジネスモデルや実際の業務の見直しを行います。それにより、企業が自分たちの存在意義と実際の事業内容に矛盾なく、存在意義を見失わずに、原点を大切に発展していくお手伝いをしています」。

―どのような企業が対象ですか。

「目先の利益を上げることを目的に行うのではなく、会社やブランドの在り方を根本的に見直したいと感じられている、経営者さんが企業さんです。自社の原点に立ち戻り、本質を磨き出し改革を行った結果として、会社の状態がより良くなるというのが、本事業の特徴です」。

―伴走型リブランディング事業では、いつも宿題をだすそうですね。

「はい。私たちが何かをお教えするのではなく、経営者さんには、ご自身で考えてアウトプットをしていただくことを大切にしています。私たちの最大の存在意義は、言語化のお手伝いをしていることだと思います。言葉になりきらない考えを、セッションを通して言語化する、まさに経営者さんの壁打ち相手であり、右腕的な存在だと感じています」。

―日本全国の中小企業で、後継者不在が喫緊の課題に突入している伝統産業ですが。

「中小企業の事業承継は、とても重要です。なぜならば、中小企業は地域の伝統の担い手そのものだからです。例えば、地域の無形文化であるお祭り。神輿の担ぎ手になる若者、お祭りを執り行うための費用、これらは全て地域の中小企業があってこそ。このような伝統がつながっていくには、若者の働き口になる魅力的な中小企業が必要なのです。企業がなくなるということは、各地の文化が消えることに直結するのです。だからこそ、私たちは日本の伝統を次世代につなぐために、中小企業のリブランディングを行っています」。

―今回、奈良市と協業している「Nara Crafts’Cross Project」伴走型リブランディング事業はどのような事業ですか。

「“奈良の工芸作家のフロントランナーを創出する”をコンセプトに、工芸に関する多面的な支援を展開する事業です。変化の激しい時代の中でもご自身のビジョンや戦略を見据え、工芸活動を営む職人さんに対し、経営やブランディング、マーケティングというアプローチからの多角的なリブランディングを通じて、工芸作品や技術を新たな時代につなげていくための取組みです。この事業で、奈良市の伝統工芸の職人さんたちを応援していきたいと思っています」。

―具体的にどのような企業を応援するのですか。

「赤膚焼2社、奈良晒1社、奈良団扇1社の計4社の企業です。各社、ご自身が受け継がれてきている伝統を次世代につなぐことに、とても意欲的な方々です。中でも奈良団扇は1社しか存続していません。その1社がなくなってしまったら、日本の伝統が一つ失われてしまうのです。伝統を次世代につなぐためにも、切磋琢磨する、同業他社を増やしていきたいという思いもお持ちです」。

―過去に、伝統工芸の事業者向けにリブランディングを行ったことがありますか。

「今回が初めてです。伝統工芸の企業の経営者の多くは、ご自身が作り手であるという側面が強いのが特徴です。そのため、作り手として多くの時間を使われるため、今回のプロジェクトを通して、改めてご自身の会社、ブランドをどのような未来へ導くかを考えるきっかけにしていただければと思っております。和えるとしては、この奈良市さんとの取組を前例に、全国の自治体にアプローチして、共に各地域の日本の伝統を次世代につないでいきたいです。『伝統産業』という言葉にまで広げれば、それを守っていくという意味では、対象は、工業製品を作っている町工場や、老舗のそば屋さんとかいろいろ考えら れますね」。

―矢島さんが日本の伝統に興味を持ったきっかけはなんですか。

「私自身が「日本に憧れる日本人」だったことから始まりました。東京で生まれ、千葉のベッドタウンで育ったため、あまり日本の伝統は身近ではありませんでした。けれども、日本の伝統の美しさに自然と惹かれ、どこか憧れながら中学高校時代に、茶華道部に入ったのがきっかけでした。伝統と共に暮らす心地よさに出逢い、多くの方にこの魅力をお伝えしたいと思いました」。

―大学一年生の頃から、職人の話を聞くために日本全国を旅していた矢島さん。もしその当時コロナ禍だったら、どうしていましたか。

「オンラインで話を聞いていたと思います。どんな時も、歩みを止めない。工夫しながら今、自分にできることを考え、歩み続けるからこそ、欲しい未来がやってくるのです」。

矢島里佳社長(左)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
矢島社長は、大学生のころに起業されたそうです。学生インターンの私にとって、すべてのお話が刺激的で勉強になりました。 日本の伝統産業に日常的に触れることはないように感じます。しかし、たまに伝統工芸のお皿でご飯を食べたり、昔から続くお祭りに行ったりすると、心が温かくなります。日本の文化は素敵だなと思うのはきっと誰もが同じでしょう。この気持ちを大切にしていきたいです。 矢島社長、ありがとうございました。

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