阪急電鉄の「マルーンカラー」車体、“美しい光沢”の秘密
阪急電鉄と言えばあずき色とも言われるマルーンカラーの車体が特徴だ。1910年の開業以来継承している伝統色の塗装や、アンゴラヤギの毛を使ったゴールデンオリーブ色の座席などのメンテナンスでは手間をかけて高品質を保つ工夫を施している。阪急全車両の検査、補修を担当する正雀工場(大阪府摂津市)では、技術者が培ってきた技能やノウハウを脈々と引き継ぎ、伝統を守っている。(大阪・市川哲寛)
マルーンカラーは元々阪急のカラーだったわけではなく、「当時輸入された鉄道車両に多かった茶色をアレンジした」(担当技術者)と説明する。以前は現在より赤みがかっていたこともあった。塗料は塗料メーカー1社に特注し、夏と冬でシンナーや乾燥時間は変えているが、塗料の色自体は同じだ。
4―8年ごとに7日間程度かけて行う車両メンテナンスに合わせて塗装し直している。塗料が剝げるなどの不良箇所は塗装を取ってパテを塗ることで平面化している。光沢を出すには「下地塗装で凸凹がないことがカギ」(同)といい、平面化は見栄えをよくするための重要ポイントだ。
車両メンテナンスでは車体と台車を切り離してそれぞれ点検している。車体は下地塗装とともに電気機器類の動作状況を点検してから仕上げ塗装する。台車は車輪を交換するとともに、台車 枠に亀裂などの異常がないかを点検する。
1両が約20トンの車両を吊り上げ能力15トンのクレーン2機で引き上げて、車庫内で各工程に移動している。メンテナンス終了後に車体と台車を合体させる時は作業者が目視で位置を調整しており、集中力が必要な作業だ。
座席メンテナンスでは表のシートと中のスポンジを張り替える。シート生地は内側の基布より小さめのサイズで縫製されており、生地を伸ばしてしわが出ないような状態で金具で止める。左手でシートを押さえて右手で金具を止めるこつのいる作業だ。作業担当者は「仕事を続けるために手のけがには気を付けている」と日常生活でも注意を払っている。
スポンジは「角部分を2枚で接合して厚みを保っているのが阪急の特徴だ」(作業担当者)と強調する。1枚で角を折ると角部分が薄くなるのを防ぐ工夫だ。またスポンジ自体も高密度の硬めのもので張り替える。張り替え後に使用されて柔らかくなるのを想定している。
ベテラン作業者であれば5人掛けシート1席を30―40分で張り替える技術を持つ。
マルーンカラーやゴールデンオリーブ色の座席などを合わせた阪急電車のデザインが日本デザイン振興会の2022年度のグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した。品の良い車両で電車内でもリフレッシュできる点が評価された。
現在、使用中の車両で最古参は1967―69年に導入された「3300系」で、51両が現役だ。13年デビューの最新車両「1300系」は、発光ダイオード(LED)照明や新型制御装置の採用などで電気使用量は3300系から半減した。環境性能は違えど、車体のマルーンカラーは引き継がれている。