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JAXAが開発に挑む「次世代赤外線センサー」の世界

人間の目が捉える光は可視光と呼ばれ、太陽などで照らされた光が物体表面で反射して目に入り物が見える。照らす光のない暗闇で物は見えない。だが、我々人間を含め室温にある物は自ら赤外線を放っているため、赤外線を捉えるセンサーであれば暗闇でも物が見える。また赤外線の各波長の量が分かれば物体の温度を知ることもできる。

最近はお店の入口に用意された赤外線カメラで非接触に体温チェックするのが当たり前となった。そして、赤外線センサーを衛星に載せて宇宙から地球を観測すれば、海や陸地の温度分布、火山活動や火災といった防災に関する情報などを広範囲にわたり昼夜問わず手にすることができる。

JAXAでは従来センサーに取って代わることが期待される高感度の次世代赤外線センサーとしてType―Ⅱ超格子検出器(T2SL)を住友電気工業と協力して研究開発している。T2SLとは量子型赤外線検出器と呼ばれる種類のセンサーの一つで、従来センサーと異なり水銀などといった特定有害物質を使用せずに高感度が期待される。加えてセンサーの膜厚調整によって赤外線波長帯3マイクロ―30マイクロメートル(マイクロは100万分の1)にて幅広く感度調節できる。

2009年に単一素子の試作から始まった研究開発は、18年には多画素化したVGAフォーマット(約32万画素)を試作するまでに至った。このVGAは波長15マイクロメートルまでの感度を有し、イメージセンサーとして人物の画像取得に成功している。現在はいよいよ100万画素の開発に着手し、研磨方法を主とした製造工程の改良を施しながら試作素子の性能評価を進めている。

また、高感度な赤外線検出器になくてはならないのが、検出器を液体窒素温度(約マイナス196度C)以下まで冷却する冷却技術である。近年では圧縮機を用いた機械式冷凍機が主流だが、数ミリメートル―数センチメートル角のセンサーチップ冷却技術としては地上用・宇宙用を問わず、高効率(少ない投入電力で高い冷凍能力を得られる)かつ軽量小型が望ましい。

JAXAでは、新たに数十キログラム級の超小型衛星にも搭載可能な手のひらサイズの冷凍機システムの検討を進めている。これによりT2SLの軌道上実証を実現し、高感度の赤外線センサーを実用化したいと考えている。

研究開発部門 第二研究ユニット 主任研究開発員 篠崎慶亮

ポスドクを経て09年にJAXA入社。宇宙機熱設計および宇宙用冷却技術の研究開発に従事し、最近は赤外線センサー開発にも参加している。博士(理学)。
日刊工業新聞 2022年09月05日

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