欧州のヒートポンプ暖房市場で攻勢かけるダイキンの勝ち筋
ダイキン工業が省エネルギー性能の高いヒートポンプ式暖房の欧州市場で攻勢をかける。急伸する市場を取り込むため約420億円を投じてポーランドに専用工場を新設するほか、ドイツ、チェコなど既存工場にも相次いで投資し、25年に欧州全体の生産能力を現状比4倍以上に引き上げる。一方でフッ素化ガス(Fガス)規制や、各国で普及機種が違うといった事情に対応できるかが焦点となる。
欧州委員会は5月、ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえてロシア産の化石燃料依存からの脱却を目指す「リパワーEU計画」を公表。今後5年間でヒートポンプの導入割合を現状比倍増させ、計1000万台にする方針を示した。フランスや英国といった主要国は、燃焼ボイラ式暖房からの置き換え時に手厚いインセンティブを設けるなど設置を促している。
ダイキンはフランス、イタリア、ドイツ、英国を重点国と位置付ける。中でもフランスは21年時点で全欧の4分の1のヒートポンプ需要があり先行する。
ヒートポンプ暖房は室外・内機の間を通る冷媒ガスが熱を持ち運びして暖めるセパレート型と、室外機で温水を作るところまで完結し、タンクにためて暖房するモノブロック型がある。フランスではセパレート型が、英国ではモノブロック型が普及している。これに地球温暖化係数の高い冷媒規制など複雑な条件が絡み合い、ダイキンは現場ニーズへの対応力が問われる。
慢心せず省エネ追及/ダイキンエアコンディショニングフランス社社長 西村英記氏
先行して普及が進むフランスで販売を担当するダイキンエアコンディショニングフランス社の西村英記社長に戦略を聞いた。(大阪・大原佑美子)
―フランスでヒートポンプ式の需要が広がっています。
「2015年にパリで開催した温暖化対策を話し合う国際会議『COP21』などを機に仏政府が環境対策に積極投資を行うなど、欧州でも先行している。変換効率の高いヒートポンプ暖房の需要は以前から根強く、特に新築の給湯・暖房機に入っていた。原子力国家で自前で電気をつくる能力が大きいことも背景にあるとみている」
―競合のパナソニックは欧州で自然冷媒のR290(プロパン)製品を23年に投入します。ダイキンのFガス規制対策は。
「当社は冷媒を開発する企業でもあり、何を採用するかは検討中。複雑な条件が絡み、最適解は難しい。例えばR290は可燃性冷媒で、ガスを家の中に入れるセパレート型ではフランスの消防法にひっかかる。パナソニックの戦略はセパレート型に挑戦状をたたきつける、勇気ある宣言だ」
―勝ち筋は。
「ヒートポンプ暖房で日本勢は強いが、欧州では独ボッシュ、独フィースマンなどが技術開発を進める。彼らの燃焼系ボイラを売る知見は我々の比にならず脅威だ。今の地位に慢心せず、規制強化を見据えた製品投入、現機種の省エネ化、ユーザー・工事業者を含めた安全性担保など複合的に取り組む」