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「今こそ同族経営を見直そう」。令和に非上場・同族経営の価値を考える

「北川烈のモーレツ!会社訪問記」ー③ソミックマネージメントホールディングス
「今こそ同族経営を見直そう」。令和に非上場・同族経営の価値を考える

ソミックマネージメントホールディングスでモーレツに改革を進める石川彰吾さん(左)の説明を聞く私、北川烈。

スタートアップ経営者の北川烈が気になる企業に突撃する「北川烈のモーレツ!会社訪問記」。今回はソミックマネージメントホールディングス(静岡県浜松市)の最終回。「企業が理想を実現するには同族経営が適しているのかも」と話が広がります。ソミックグループ創業家の石川彰吾さんと石川さんの盟友でグループ幹部の大倉正幸さんに聞きます。

将来有望な投資でも「有価証券報告者に書けない」ジレンマ

北川 社会課題を解決するにはシナジーがない事業でもホールディングス(HD)として展開するのが意外に大事かなと思っています。日本企業が目指すべきはGAFAではなく、トヨタ自動車や三菱グループのような巨大グループや財閥なのではないかと。もちろん、一般論では上場企業にとってHDはあまりプラスではないのですが。そういう意味ではソミックマネージメントHDが非上場の同族経営であるメリットは大きいのでは。

石川 その通りですね。短期のリターンにガチガチに縛られず、長期投資できるのは非常に大きいですね。

大倉 この問題は創業家でないけれども、ぜひいわせてください(笑)。私もこれまでの社会人生活で「長期的には絶対にプラスなのに短期のリターンが見込めないから、泣く泣く断念させられた投資」がいくつもあります。これは大企業に勤めた経験がある人は誰もが「あるある」なはずです。みんな優秀だから「これはやったほうがいい投資だ」って理解しているんですね。でも、いざ現実となると「すぐにリターンが見込めないし、有価証券報告書にどう書くんだよ。書けないぞ」って議論になってしまう。昔、「それならば僕が書きます」と手を挙げたら、「そういう問題ではないから」と言われましたけれど(笑)。これは個人が悪いのではなくて、仕組みの問題なんですね。

「短期的利益に縛られないのが最大の強み」と非上場・同族経営のメリットを説く大倉さん。

北川 そのどうしようもない矛盾を非上場は乗り越えられると。

石川 そうですね。当社は自社を成長させていこうとしたときに、何を維持するべきかを徹底的に考えると、同族経営、特に非上場であることに行き着くんですね。より多くのステークホルダーの合意を得なくて意思決定できるのは想像以上に強みになっています。そこは捨ててはいけない。もちろん、素早く正しく意思決定する難しさはあります。そのサイクルが可能になる人材育成もしながら、世の中よりも経営を早いスピードで回せる会社であり続けることが、私たちの生き残る道でしょうね。

北川 結局、目的は何なのかになりますよね。より良い会社がつくれればいいわけで。

石川 そうなんですよね。例えば、新規事業を手がける「ソミックトランスフォーメーション」だけを独立させて上場させてもいいわけです。手段が目的にならないようにだけは常に自分を戒めています。

極論、「形」はどうでもいい

北川 一方で、創業家ならではの悩みもあるかと思いますが。

石川 よく聞かれますが、ほとんどありません(笑)。かつては確かに自分の立場や役割への葛藤や気負いはありました。ただ、突き詰めて考えると、社長にならなくてもやれることはいくらでもあるんですね。結局、今、経営のバトンを持っている人にだけ同族経営を続けるか考える権利があるわけです。権利がない人間が周りで意見しても会社にプラスにはなりません。だから、会社全体にそういう意識が根付けば、さらに強い会社になれると考えています。

大倉 これも創業家でないのですが、いわせてください(笑)。同族経営にありがちな罠は、創業家の持つ歴史や哲学という概念的な部分と、企業価値をテクニカルにどう向上させていくかという形式的な部分がゴチャ混ぜになってしまうことなんですね。だから多くの同族企業では「創業由来の事業だから、そこは何一つ変えてはいけない」みたいな聖域をもうけてしまって、おかしな話になってしまう。当社の場合、そこの分離が、うまく進み始めています。石川が大事にしてるのは、あくまでもシンボルとしての同族企業の歴史なんですね。だから、それが守られていれば会社の名前にも事業の形にもとらわれないんですよ。

石川 その通りです。社会に貢献できるかどうかのほうが優先度が高いんですね。その軸がぶれない限りは、何がどう変わろうが 「私たちはソミックグループです」といえるわけです。

北川 極論では違う社名に「石川」がなくても、DNAさえ引き継がれていけばいいと。

石川 本当、そうだと思いますね。

北川 そうすると、今、一番足りないなものって何になりますか

石川 仲間がもっと欲しいですね。世の中の変化のスピードがどんどん速くなっていっていますがそのスピードよりも速いスピードで変わらないと世界は変えられない。リアクションはできても、ムーブメントは起こせません。そう考えると、仲間になってくださる方たちがまだまだ足りないのが実感です。ぜひ、この連載を読んで関心がある人はこえをかけてほしいですね(笑)

今、最も欲しいものは「仲間」と語る石川さん。

大倉 私は社員の自己肯定感ですね。「みんな、もっとやれるのに」と常々歯がゆい思いをしていまして。ですから、石川や私の取り組みは社員が自信を取り戻すための活動ともいえます。「自分たちを卑下しなくていいよ。喜ばれることやっているんだから、自信持て」といいたいんですね。ただ、「きみたちはできるんだ」とひたすら叫び続けても、それは経営ではありません。怪しい人になってしまう(笑)。KPIを置いて、そのKPIを達成するために、具体策を考えています。つまり、私たちとしては目標を達成するために「大丈夫だ」と鼓舞しているのではなく、できると思ってもらうために目標を置いているんですよ。

北川 「自分たちはできる」と思えた時には設定した数値目標は達成されていると。

石川 そうなんです。日本全体が、今、自信を失っているじゃないですか。特に中堅中小企業の置かれている立場は苦しい。でも、世の中の大半は中堅中小企業です。私たちを含めて中堅中小企業が自信を取り戻して「できる。大丈夫だ」と思えれば、世の中全体が良い方向に向かうと思うんですよ。(おわり)

                                     (構成 栗下直也)

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北川烈(きたがわ・れつ)スマートドライブ 代表取締役(CEO)。慶応大学在籍時から国内ベンチャーでインターンを経験し、複数の新規事業立ち上げを経験。その後、1年間米国に留学しエンジニアリングを学んだ後、東京大学大学院に進学し移動体のデータ分析を研究。在学中にSmartDriveを創業し代表取締役に就任。

石川彰吾(いしかわ・しょうご)ソミックマネージメントホールディングス 取締役 / ソミックトランスフォーメーション 代表取締役。静岡県浜松市生まれ。オハイオ州立大学卒業後、自動車メーカーで国内4輪工場にて生産管理業務、インドへの駐在を経験した後、自動車部品メーカー、ソミック石川へ入社。創業106年の企業再編を推進中。

大倉正幸(おおくら・まさゆき)ソミックトランスフォーメーション 代表取締役 / ソミックマネージメントホールディングス 取締役 / ソミック石川 取締役。三菱UFJ銀行、DENSOなどを経て、企業再生、事業企画、海外事業、M&A、スタートアップなどの領域を数多く経験。2019年より現職。

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