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マツコロイドと人間の決定的な違いを考える

「ロボット未来フォーラム」で語られたこと。(後編)

――アンドロイド、マツコロイドは人間らしさを求めて、作っているわけじゃないですか?でも人間らしさをなくすことでの効果を発見する、というのは逆転現象というか。

伊藤:人間らしさを求めた結果、それでもなお足りない部分があるじゃないですか?でも、それはマツコロイドの個性なんですよね。個性を生めると、バージョンアップをしてマツコさんにより近づけていくという方向性で技術者は考えがちなんですけど、せっかく育った個性を埋めちゃうと、それがよかったのに!という人が出てきまして。

きゅんくん:ボーカロイドでも、つたないしゃべり方がいいのにそこを改良するなと言われていましたよね。

伊藤:そうなんですよ。ボーカロイドでもたとえば改良というか滑舌の問題がありまして、
バージョンアップをしたときに、それを歓迎する人と、あの個性が、あのたどたどしさはどこいっちゃったんだという人がいて。ある意味議論する必要がある。

――機械はミスを基本的にはしない。人間はミスをすることで親しみやすさやかわいらしさにつながるという話はありますね。

きゅんくん:足りないところは愛しさになるんじゃないですかね?

伊藤:逆にアンドロイドが人間に近づくというのはありますけど、一方で人間がどんどんアンドロイド、ロボットに近づく。両方から近づいているような気がしますよね。

機械であることの個性を認めて共生する


きゅんくん:お二人は割とロボット・機械を人間に近づけようという活動をされていますけど、私はそれとは結構対極で、人間からどれだけ離れたロボットになるかみたいなことをやっています。人間とはすごい離れた存在で、メカメカしくて人をなんか傷つけるような見た目をしているんだけど、そこに人とのつながりが生まれる。違うものだからこそ人間とつながりが生まれるということを大事にしていて。近づけて仲良くなるんじゃなくて、メカという個性を認める、ということがコミニュケーションロボットを受け入れる一歩としてはあるんじゃないかなと思います。

吉無田:人間に近づけていこうとすると、微妙な差がすごい不気味だったり拒絶する要素だったりするので、逆に真逆に言っちゃったほうが愛着がわくのかもしれないですね。

きゅんくん:映画の「トランスフォーマー」みたいなものって、カッコいいからみんなファンになる。そういうコミュニケーションロボットもいてもいいはずと思います。

伊藤:SFというか、特に日本のサブカル含めた、非常に先進的なイマジネイティブな文化ってどんどんどんどん先に進むんですよ。未来が進んでいくんですね。まだ人間が、テクノロジーが、技術が追いついていないのに物語がどんどん進んでいって、ロボットとかAIを追体験していて、ああ、こういうのもあったよねという逆に懐かしさすら感じるんですね。
技術の進化に対して人間のイマジネーションのスピード感が先に進んでしまう分、すごい後追いで、いろいろなことを技術が解決しないといけないと頑張っている。

きゅんくん:私はちょっと違うんですよ。大好きなロボットをどれだけ身近に置きたいかという発想で、着れたら一番物理的に近くにいれていいんじゃないかなと。

伊藤:でもさっき、「究極的にはスマホには入れるのはどう?」と聞いたら、触れられなきゃ嫌だって。

きゅんくん:フィジカルというか、すごく存在感が欲しいですよね。声だけのAIって存在感がないですよね。
 マツコロイドを観ていた時に、ホリさんが声を担当している時が一番存在感があったんですね。マツコさんが遠隔で話している時は声の端々で遠隔で操作しているのが伝わってしまうけれども、ホリさんがしゃべっていると、それが全く感じられなかった。

伊藤:人工音声(AIトーク)だと身近に感じます?

きゅんくん:そうですね。AIトークの方が身近に感じることもあるかもしれないですね。

――実際、AIトークを番組でも使われたことがあると。

吉無田:人間の発話って、難しいんだなと。ちょっとプログラミングなどをかじってみて、これは恐ろしい世界だなと感じましたね。伊藤さんなんてさらに歌うっていうところまでもう一つ先のステージに行っていますが。

きゅんくん:マツコロイドでAIトークが出てきたときにホリさんの声とAIの声がたまにわからなくなったときがあったんですね。ホリさんがAIトークに寄せていたんじゃないかな?と。

吉無田:それくらい凄い人ですよ。不思議なのが、「憑依」するんですね。ホリさんってものすごい腰の低い方で、マツコさんと直接話すと恐縮してしまうというか、全然突っ込んでいけないんですよね。だけどマツコロイドというアンドロイドの形を借りることで、マツコさんになりきるという。「憑依する」というと石黒先生は言っていたんですけど。
番組が終わる時、最後にマツコロイドのスイッチを切る演出をしたんですけど、一番ショックを受けていたのはホリさんでしたね。

「自分のアンドロイドは別人格」


――番組の中で、マツコさんは唯一自分のアンドロイドが社会に出て行った人間だというお話がありましたけども。

吉無田:石黒先生は研究材料で自分のアンドロイドは作っていますが、アクションはあまりしていなくて。マツコさんが初めて、自分のアンドロイドがいろいろ進化していく半年間を隣で観ていく実験対象というか被験者だったんですよね。
初めは不気味に感じていたのが、だんだん親しみを覚えてきて。でもマツコロイドが実験の中で少し人間の技を習得しはじめると、「自分以上のことができるようになるのでは」と恐怖を感じるようになって。
 でも最後に、アンドロイドに対して別人格のような、まるで自分の妹のような感覚だと言っていました。これ30年後とか40年後に自分にそっくりなアンドロイドを家においておきたいなんて人も出てくるのかな?と。

きゅんくん:アンドロイドが人間以上のことをできるようになるのが恐怖って話もありましたけど、先ほどは人間よりできることが少ないから魅力があるという話でしたね。それもある意味、人間以上のことをしている。人間ができないことに良さがある。

伊藤:非常に深いですね。

――もっとお話を聞きたいところですが、お時間が…。
 ロボットとかアンドロイドを考えることは、人間を考えることにつながる。人間らしさとは何かといった話になる。ロボットを作る技術者の方以外でも、他分野の人の色々な意見を聞いたり、話し合ったりする場がもっと増えればいいなと思いますね。
ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
ロボットを考えることは人間を考えることにつながります。ロボットが今後、社会に受け入れられていく過程で人間との関係は幾度となく議論されていくでしょう。ロボット開発者だけでなく、幅広い分野の人がロボットに興味を持っている今だからこそ、分野を超えて議論していってほしいと感じました。大変面白いディスカッションでした。

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