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目玉政策だが…文科省予算で「総合知」の記述が4分の1になった背景

文部科学省の2023年度概算要求から「総合知」の予算項目が後退した。文科省全体の予算資料から総合知の記述は22年度に比べて4分の1になった。総合知は第6期科学技術・イノベーション基本計画で掲げられた目玉政策の一つだ。ただし、総合知は手段であって目的ではなく、脱炭素や医療などに比べて政策を立てにくい。政策を小さく生んで大きく育てるサイクルがまだ回っていない。(小寺貴之)

「総合知の名称は少ないが、理念は各政策に浸透している」と寺門成真前科学技術・学術政策総括官は説明する。文科省は23年度の新事業として「市民参加による海洋総合知創出手法構築プロジェクト」を立ち上げる。予算は9800万円。ステークホルダーの多い海を中心に自然科学や人文社会科学の専門家と市民を巻き込んで、市民参加型の研究手法を構築する。

例えば、かき養殖業をめぐっては海のきれいさを求めるダイビング事業者と、海に栄養素を求める養殖事業者が対立する。こうした最適解を探る研究者と下水処理場を管理する自治体、観光地や名産品を地域の誇りとする市民など、多様なステークホルダーが関わる。

そこで研究段階から多くが関わり、一緒に解決策や合意形成を探る関係性を築く。市民にとっては住民説明会で専門家から地域課題について報告を受けるのではなく、問題提起から解決まで共に歩む試みだ。海洋研究者だけでなく、経済や社会などの専門家も関わることになる。新事業では予算枠1300万円の研究を6件、中核推進機関は1900万円で1件採択する計画だ。担当者は「予算は小さいが丁寧に育てていきたい」とする。

こうした総合知を支える人文社会学の大学院改革も進める。要求額7億円の新事業として「価値創生に向けたネットワーク型人文・社会科学系大学院構築支援事業」を23年度に始める。背景には脱炭素やエシカル(倫理)消費といった新しい価値概念を日本から生み出せていないという危機感がある。技術の標準化争いやデータ覇権に続いて、価値観という根幹レベルのゲームチェンジでも日本は受容する側にいる。

ただ人文社会学の大学院は若手を育てる環境として貧弱だ。大学院生への指導経験の乏しい教員が少なくなく、博士課程修了者の8割以上が標準修業年限を超過している。そこで大学を越えてネットワーク型の研究支援体制を作る。幅広い分野の教員が関わるチーム型の教育研究プログラムを立ち上げる。実際に社会課題を解いて総合知を実践する。

総合知の政策は小粒だが運営する負担は小さくない。文科省内の折衝を経て新事業として残ったものの、「財務省からはゼロ回答もありえる」と担当者は焦燥感を抱えている。

文系大学院改革事業は総合科学技術・イノベーション会議の上山隆大議員に「法律や経済、分野ごとに戦略を立てなければ、いい政策にならない」と指摘されている。総合知は異分野をつなぐ政策だが、つなぐこと自体は評価されないという難しさがある。着実に成功モデルを積み上げることが望まれる。

日刊工業新聞 2022年9月7日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
総合知は昨年度から動いているプロジェクトもあるので、こつこつとプロジェクトが増えています。ただ研究DXのようには増えませんでした。研究DXはスパコンなど、設備投資費も含むので政策としては大きく育っています。総合知は異分野連携施策なので、手間はかかる割に成果を定量化し難い面があります。そして財務省うけが極めて悪いそうです。体のいいネットワーク作りの事業に見えてしまいます。予算が切れてもハブ拠点であり続けられた研究機関が少ないことも印象を悪くしています。ですが、異分野連携を進めないと総合知なんて実現しません。市民参加は総合知を社会実装するプロセス開発と言えます。科学が専門家だけで閉じたものにならないよう方法を試す事業は重要です。また人文社会科学の大学院調査で、教育組織としてほぼ機能していない大学院がたくさん明らかになりました。大学研究室の学生は教授の脳みそををアップデートし続ける役割があります。ですが、研究室にほとんど大学院生がいないラボが少なくなく、教授職が個人事業主の域をでません。総合知では多様な観点、多様な分析が必要です。弊害はあるものの、若い頭脳が切磋琢磨しながら教授を支える仕組みを作らないと、ラボとしての競争力は培われないのではないかと思います。

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