セイコーエプソンの慣性計測装置が解決する食料不足問題
セイコーエプソンの手がける慣性計測装置(IMU)が、ここ5年ほどで本格的に普及しはじめた。IMUは物体の動きを3次元で正確に計測することができ、自動運転機能を持つトラクターなどに採用される。大規模農業による効率的な農産物の生産に一役買っている。部品供給を通じて精密農業に貢献することで、世界共通の課題でもある人口増に伴う食料不足問題の解決を目指す。
農機の大型化による生産効率の向上には限界があり、自動化や無人化が進む。特に米や小麦、トウモロコシなどの穀物を生産する広大な農地での精密農業が盛んだ。北米や欧州、ブラジル、中国などが主要市場にあたる。穀物の収穫率を上げることが課題となっている。
セイコーエプソンのIMUは、トラクターの位置や姿勢を計測・制御する役割を持ち、全球測位衛星システム(GNSS)本体に組み込まれる。トラクター以外にも、ロボットや芝刈り機、ドローン、建機など幅広い産業機械に用いられている。米の場合、トラクターが1マイル走行するのに1度ずれると13・6トンをロスすると言われており、効率化とともに正確性も求められている。
現在は穀物畑での普及が進むが、野菜や果物畑での機械化はあまり進んでいない。穀物と異なり収穫時につまんだり剪定(せんてい)したりするような作業が必要で、より精密・緻密に制御できるセンサーが必要となる。TD商品開発部の今井信行部長は野菜などでの実用化を目指すとしながらも「経済合理性の観点からロボットに置き換えられるかは課題だ」と語る。
同社ではIMUに加え、カメラの手ぶれ補正などに使われるジャイロセンサー、振動を計測する加速度センサーを主に展開する。制御だけでなく、構造物や機械装置の劣化などの変化も捉える。橋梁やビル、道路などの構造物から、モーターやダムの水門、ゴミ焼却場のファンなどにも使用される。近年災害が大型化し水害も多発する中、引き合いが増えているという。