ニュースイッチ

日用品の「水平リサイクル」、立ちはだかる最大の問題

日用品の「水平リサイクル」、立ちはだかる最大の問題

使用済み詰め替えパックの洗浄・粉砕工程。内容物を保護するための多層構造でリサイクル品の品質維持が難しい

日用品大手各社で使用済み製品を同じ製品にリサイクルする「水平リサイクル」の取り組みが進んでいる。ペットボトルのように製品が単一素材ならば安定回収により同じペットボトルに戻すことが可能。一方で詰め替えパックや紙おむつ、歯ブラシなどの製品は複合素材の上にメーカーごとに素材が微妙に異なる。同じ製品にリサイクルするのは技術的に簡単ではない。さらに再生した製品のイメージが購入者の意識に影響するため、実現への高いハードルだ。(編集委員・井上雅太郎)

シャンプーや液体洗剤などでは詰め替えパックが普及しつつある。これにより容器に使用するプラスチック量が大きく削減できたことは確かだ。しかし今度は使用済みの詰め替えパックのリサイクルが課題になっている。

花王は詰め替えパックの水平リサイクルを目指している。ただ詰め替えパックは温度や湿度から内容物を保護するため、素材の異なるフィルムによる多層構造。そのままリサイクルすると「穴が空いたり、品質が維持できないなどの問題が生じる」(花王)という。

同社は和歌山研究所内にパイロットプラントを設置しており、技術的な課題解決を急いでいる。包装技術研究所の瀬戸啓二リサイクリエーションプロジェクトリーダーは「製品として実用化を目指しているが、コストの低減だけでなく回収量の向上も課題」と指摘する。さらに「技術的課題をクリアした上で2025年までの実用化を目指す」という。

ユニ・チャームは使用済み紙おむつのリサイクルに取り組んでいる。織田大詩リサイクル事業推進室マネージャーは「一般廃棄物に含まれる紙おむつは5%程度を占める。高齢化の進行で比率は7―8%に高まるだろう」という。同社は鹿児島県志布志市大崎町と連携し、紙おむつのリサイクルプラントを2016年に設置。実証実験を行っている。

紙おむつはパルプと高吸水性樹脂(SAP)、不織布、プラスチックなどの素材で構成。回収したおむつを洗浄・粉砕しプラスチック類とSAPを分離し、さらに3―5割を占めるパルプを取り出す。「パルプはオゾン処理を施し再生。パルプの実用化は検証を終えている」(織田マネージャー)とする。

プラスチックは化学メーカーと開発を進めるが「SAPはし尿を除去して性能を回復するのが難しい」と明かす。またそれ以上に「他人が使用した紙おむつを再生した製品を購入してもらえるか」が大きな課題になる。

専用袋による紙おむつの回収置き場。回収量の確保も課題となる

ライオンはトップメーカーとして歯ブラシのリサイクルに取り組む。自治体などと連携して使用済みの歯ブラシを回収。植木鉢や定規などにリサイクルして地元小学校に配布するといった取り組みを進めている。

歯ブラシはブラシと持ち手の樹脂素材が異なるほか、メーカーごとにも別の素材を採用している。水平リサイクルは「歯ブラシとして性能の確保や品質の安定などで課題はある。ただ技術的に解決はできるだろう」(サステナビリティ推進部)と実現の可能性を示唆する。

その一方で同社は「最大の問題は水平リサイクルした製品のイメージ」とも指摘する。「科学的に清潔さを証明しても、他人が使用した歯ブラシというイメージが購入の障壁になる」という。購入者の意識を変えてもらう取り組みも必要になる。

日刊工業新聞2022年9月27日

編集部のおすすめ