バイオマス電源が袋小路か、中部電力に受難
バイオマス発電の燃料輸入価格が高騰し、中部電力の再生可能エネルギー電源の開発戦略が転換を迫られている。ウクライナ情勢と円安の影響を受け、7月の輸入価格は前年同月比4割高い。再生可能エネルギーカンパニー社長の鈴木英也専務執行役員は「(この情勢が続くと)新たな(発電所の設置)計画を立てることは難しい」と明かす。短期・中期的な再生エネ電源拡大に寄与すると見ていたバイオマス電源が袋小路に入りかねない。(名古屋・永原尚大)
木の端材を圧縮した「木質ペレット(写真)」などを燃やすバイオマス発電は、昼夜問わず安定的に発電できる強みがある。環境アセスメントなどの手続きが容易なため開発期間が短く、全国各地で大型発電所の建設ラッシュが続く。
だが、出力1万キロワットを超える発電所では燃料を輸入材に頼るのが実態だ。中部電は2025年内までに12カ所合計57万650キロワットのバイオマス発電所を稼働させる計画だが、その多くは燃料を北米や東南アジアから調達する。輸入量は全国的に見ても増加傾向にある。財務省貿易統計によると、21年の輸入量は前年比53・7%増の312万トン。輸入額では同67・9%増の617億円だった。
ところが、22年2月に起きたロシアのウクライナ侵攻がこの熱気に水を差す。木質ペレットは発電用のみならず、欧州家庭の暖房用としての需要も圧倒的で「ロシアから調達できなくなったことで燃料の取り合いが起こり、価格が上がった」(鈴木専務執行役員)。そこに円安が加わり、7月の輸入平均単価(財務省貿易統計)は、前年同月比4割増の1トン当たり約2万9000円に跳ね上がる。
中部電はすでに、運転中または開発中のバイオマス発電所で使う燃料の8―9割を、10―15年の長期契約で確保している。スポット価格が長期価格よりも上回る状況に鈴木専務執行役員は「やっていてよかった」と胸をなで下ろすが、「この状況が続くと新設は難しくなる」と肩を落とす。
30年までに200万キロワット超の再生エネ電源を新規開発する目標を掲げる同社にとって、有望な電源が一つ消えることに等しい。
確かに、国内に目を向ければ豊富な森林資源は眠っている。だが、傾斜のある山が主体の日本では切った木を安く山から下ろせる手段がなければ採算が合わない。「平地が主体で重機が使える北米とはわけが違う」(同)。
安定した発電により「再生エネのベースロード電源」と呼ばれるバイオマス発電。その“ベース”となる燃料確保は、想像以上に不安定となっている。