海洋プラリサイクル促進、広がる技術開発の現在地
環境問題として深刻化している海洋プラスチックゴミをリサイクルする技術開発が広がり始めた。海洋汚染や生態系への影響が懸念される中、海洋に行き着いたプラスチックをリサイクルする対策は回収ルート確保やコストの問題で進みにくい。サスティナブル(持続可能性)社会の実現を掲げる企業各社を中心に、技術開発によりリサイクル製品として循環させる取り組みが始まっている。(編集委員・井上雅太郎)
岐阜プラスチック工業(岐阜市神田町)が開発した、海洋プラスチックを一部に活用した物流用プラスチックパレットの採用が広がっている。「オーシャン・バウンド・プラスチック」と呼ばれる海洋に流出する可能性があるプラスチックゴミを回収・リサイクルした素材を活用した。
食品業界で日清食品(東京都新宿区)が製品の輸送・保管用パレットとして採用を開始しており、2030年までに全数の切り替えを計画している。化粧品業界ではポーラ(東京都品川区)が導入した。「保有する約1万5000枚のパレットを5年後をめどに交換する方針で、海洋プラスチックゴミ約7・5トン分の流出防止につながる」(同社)と試算する。さらに一般医薬品業界でロート製薬が8月から同パレットの使用を始めた。
伊藤忠商事とテラサイクルジャパン合同会社(横浜市中区)は長崎県対馬市に漂着した海洋プラスチックゴミをリサイクルした原料を三菱鉛筆に提供し、同社が素材の一部に活用したボールペンを開発した。
対馬市には推定で年約2万立方メートルのプラスチックゴミが漂着しているとされる。伊藤忠などはこれを選別・粉砕して資源化する取り組みを進め、すでにゴミ袋や買い物かごのアップサイクル向けに提供している。今回、この一環で三菱鉛筆がノベルティ専用商品のボールペン「ジェットストリーム 海洋プラスチック」として受注を開始した。
また、帝人とチムニー、JEMS(茨城県つくば市)は廃棄される漁網由来の再生ポリエステル樹脂を原料に使った配膳用トレーを共同開発した。国内では年1300トンものポリエステル製漁網が廃棄されているという。帝人は漁業協同組合などを通じて不要な漁網を回収し、再生樹脂にリサイクルする。
この再生樹脂を配膳用トレーの10%以上に使用するもので、チムニーが運営する居酒屋店舗で定食メニューの提供に使用する。利用者の懸念に配慮し、JEMSのブロックチェーン技術によりトレーサビリティー(履歴管理)に対応しているのも特徴。「30年までに年1000トンの漁網のリサイクルを目指すが、安定的な量の漁網を回収することが課題になる」(帝人)と指摘する。
企業各社による海洋プラスチックゴミのリサイクルの取り組みは、回収ルートの確保やリサイクルコストの低減が今後も大きな課題になる。研究開発を積み重ねることで、一歩ずつ解決していくことが必要だ。