ニュースイッチ

“脱・照らすだけ”…競争激化のLED照明、差別化で勝ち残れるのは誰か

“脱・照らすだけ”…競争激化のLED照明、差別化で勝ち残れるのは誰か

ミネベアミツミの家庭用の照明機器「サリオ ピコ」のスタンドタイプ。演色性が高く、対象物を美しく見せる(同社提供)

アプリ操作で便利に 家庭で癒し

照明メーカーが家庭用・業務用の発光ダイオード(LED)照明の差別化に力を注いでいる。白熱電球などの既存の照明と比べ製造しやすいため参入企業が増加したことなどが背景にある。直近では照明器具出荷数量の99%超をLED照明が占める一方、ストック(既設照明器具の総数)のうちLED照明をはじめとする高効率照明の割合は半分程度にとどまり、メーカーの商機は残る。各社は製品の付加価値を高め、勝ち残りにつなげられるか試される。(阿部未沙子)

日本照明工業会によると2010年度は照明器具出荷数量の全体のうちLED器具は10%に満たなかったが、20年度には全体の99%超を占めるまでになった。こうした急拡大の背景には消費者の省エネに対する関心の高まりや技術革新、製品価格の低下がある。消費者の意識については、11年に発生した東日本大震災の直後に計画停電が行われたことで省エネに注目が集まり、長寿命・省電力という特徴を持つLED照明の普及を後押しした。

技術革新では、発光効率の改善が進んだ。00年前後では1ワット当たりのエネルギー消費効率が20ルーメンほどだったが、直近では同200ルーメンの照明もあるという。また、既存照明と比べ製造しやすいことなどから新規参入が増加。多くのLED照明が市場に出回って価格が下がり、購入する消費者も増えた。

「LED特需はこの10年ほどで、おおむね一段落しているのではないか」(ミネベアミツミ照明製品推進統括部責任者の川合広和氏)との見方は多いが、好材料もある。政府は30年までにストックにおけるLED照明などの高効率照明の割合を100%とする目標を掲げる(21年度末は約50%)。照明メーカーの商機は残っているとも言え、各社は付加価値の高い製品の開発や拡販に力を注ぐ。

ミネベアミツミはLED照明器具「SALIOT(サリオ)」の生産を15年に開始。サリオは高所に設置でき、アプリケーション(応用ソフト)での操作により照明を動かせる点が特徴。人による高所での作業をなくし、利便性や安全性の向上に貢献する。商業施設や美術館、ホテルなどに導入実績がある。

サリオは同社が持つレンズの光学技術や小型モーター、電源、回路、無線などの技術を組み合わせて開発された。照明製品等新商品企画室の上野毅室長は「複数のモーターを使いこなし、(モーターを)照明器具内にきれいに収めている点」で他社と差別化できていると強調する。

コロナ禍により家で過ごす時間が増え住宅空間を快適にしたい需要の高まりを受けて、21年には家庭用向けの照明機器「サリオ ピコ」を発売。スタンドタイプや壁に付けるタイプを用意する。

同製品の光の効果について千葉大学と実証実験を実施した結果、一般のデスクライトを使った場合に比べ、落ち着いて作業ができることが示された。例えば睡眠前の目を使う作業に適するという。ミネベアミツミは、サリオシリーズ全体で23年度に7億円以上の売り上げを目指している。

岩崎電気のLED景観街路照明「ユニス」には、季節や時間に応じた光の変化が可能な機種も用意されている

景観照明でも人の心地よさを考えた照明が開発されている。岩崎電気の伊藤義剛社長は6月の新製品発表会で「いかに景観や建築に溶け込むか。まぶしさのない柔らかな光を前面に押し出した」と述べた。同社はLED景観街路照明のフラッグシップ(旗艦)モデル「unis(ユニス)」を展開。風景に調和するシンプルなデザインが特徴だ。

従来、景観照明では機能性や効率性が重視される傾向にあったが、LED光源の進化を背景に、多様な要望に応じられるようになった。一部製品は、季節や時間に応じて光の明るさを変えられる。例えば、冬にはオレンジ色の柔らかい光をともし、夏には青白い光で照らす。「季節に応じて、人の生活に溶け込む形での光の変化を実現した」(照明事業企画推進部事業企画推進課の川股敦史課長)。ユニスシリーズで初年度1000台の販売を目指す。

ホタルクス(東京都港区)も人に安心感を与える製品の開発に取り組んできた。消灯後も一定の間、明るさを保持する「ホタルック機能」を搭載。同機能は停電時にも点灯ができるため、使用者は緊急時に周囲の状況を確認しやすい。

災害発生時に役立つ照明を開発する一方、人の心地よさを重視した照明も展開。「顧客から意見をもらいながら開発をしていった」(近藤俊幸取締役)のが、特殊導光板を搭載した照明「HotaluX VIEW(ホタルクス ビュー)」。導光板にデザインを施したほか、明るさを切り替えられる。所定のリズムで自動調光することも可能で、人に癒やしを与える効果が期待される。

今後の戦略について近藤取締役は「可視光だけでなく、紫外線や赤外線にも(事業の)領域を広げている」と語る。コロナ禍では近紫外線を使った除菌器を開発した。

照明メーカー各社は対象を照らすという従来の役割だけでなく、快適な生活環境の提供も重視している。そうした付加価値を高められれば、LED照明市場における存在感も向上しそうだ。


【関連記事】 100余年の白熱電球生産に幕、老舗メーカーはなぜ復活できたのか
日刊工業新聞 2022年8月18日

編集部のおすすめ