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生物多様性「次期世界目標」設定に遅れ、議論が一進一退

企業の対策、強制案浮上 12月に最終決定へ

生物を守る次期世界目標をめぐる議論が一進一退となっている。最終決定する12月の国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)に向けて交渉時間がなくなりつつあるが、細部で各国の意見がまとまっていない。もともと2020年に採択する予定だったが、新型コロナウイルス感染症の流行で交渉が大幅に遅れた。企業活動を左右する目標も含まれており、議論の加速が待たれる。(編集委員・松木喬)

6月末、ケニア・ナイロビで各国の交渉官が集まり、目標を議論する作業部会が開かれた。日本自然保護協会が開催した報告会で作業部会の内容の一部が明らかになった。

次期目標は「ポスト2020生物多様性枠組み」と呼ばれ、20年1月にたたき台となる原案が公表された。2年以上、交渉を重ねているが、22年3月にスイス・ジュネーブであった作業部会でも「大量のブラケット(カッコ書き)が残った」(環境省担当者)状況だ。文章中の“カッコ書き”は、表現方法(書きぶり)で各国の意見が衝突する部分だ。

12月のCOP15本番から逆算して最終検討だったケニアの作業部会は、カッコ書きを取り除くはずだった。しかし「進展がなかった。後退もあったが、ジュネーブ時点まで戻った」(同)と一進一退を振り返る。それでも21あるターゲット(個別目標)のうち、「目標12」と「目標19・2」はカッコ書きがなくなった。目標12は都市に緑地や親水を大幅に増やす内容。目標19・2は途上国の能力向上支援や共同技術開発だ。

残ったカッコ書きをめぐる攻防から「論点がかなり明確になった」(環境省担当者)という。「目標7」の「殺虫剤の3分の2を削減、プラスチック廃棄物を根絶」については、共通した数値目標は科学的に難しいと慎重な意見が出た。また「根絶」を日本などは支持したが、「終わらせる」「防ぐ」への変更を求める声もあった。

「目標15」の企業活動による生物多様性への「負の影響を半減する」に対しては、「大企業」や「国際企業」の明記や法制化で強制力を持たせる主張が出た。

資金援助を引き出したい途上国の駆け引きも垣間見えた。「気候変動と生物多様性の同時解決」が国際的な共通認識となり、象徴する言葉として「自然に基づいた解決策(NbS)」が出ている。このNbSを目標に入れることに途上国が抵抗している。表向きの理由は「定義が曖昧」だが、「気候変動と生物多様性それぞれで援助が欲しい途上国は、資金が減って損すると思っている」(NGO関係者)と推測する。

今後、各国がグループを結成してCOP15まで議論を続ける。また、予算確保を条件に開幕直前に作業部会を追加招集する。次期目標が期限とする30年まで8年を切った。企業の事業計画に影響するため、これ以上の遅れは許されない。

日刊工業新聞2022年8月12日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
生物多様性のCOP15は、「ゼロ・コロナ」を目指す中国での開催を断念し、カナダ・モントリールに会場が変わりました。同じアジアなので日本が開催地になって欲しかったです。企業緑地を国の生物多様性保護地に組み入れる「自然共生エリア」などを世界に発信するチャンスと思いました。

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