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“社食”でビルに競争力、三菱地所が得た好感触

交流の場、高い利用率
“社食”でビルに競争力、三菱地所が得た好感触

終日にぎわう“社食”が常盤橋タワーの商品性を高めた

三菱地所が運営する入居企業向けの“社員食堂”が、オフィスビルの付加価値向上に一役買っている。2021年6月に開業した「常盤橋タワー」(東京・大手町)に初めて導入。コロナ禍で変化した働き方を背景に、オフィスへの出社や社員同士の交流を促す仕掛けとして足元も高い利用率を誇る。27年度の竣工を目指す「トーチタワー」(63階建て、高さ約390メートル)にも導入を計画する。

三菱地所は常盤橋タワーに、2フロアにおよぶ広い共用施設を整備した。シェアオフィスや高級感のあるラウンジ、コンファレンスルームをはじめ、チームビルディングやウェルビーイング(心身の健康と幸福)など各種プログラムも用意。中でも入居企業の就業者から好評な施設が、平日の昼間に就業者専用とした“社食”のような空間「MY Shokudo」だ。

MY Shokudoは同タワー3階に位置し、広さは約1490平方メートル。ダイニングとサカバ(酒場)、カフェ、外部の人も使えるキッチン付きホールで構成する。周辺の飲食店に比べ価格を抑えたこともあり、昼間の定食販売は1日約500食と好調。外部利用が可能な夜も約半数を就業者が占め、就業者の7割が週1回以上利用したとの調査データもあるという。

同タワーの他フロアには、いわゆるテナントとして入居している飲食店もある。一方、MY Shokudoは三菱地所から委託を受けた業者が運営しているのが特徴だ。ビルオーナーである三菱地所のビジネスモデルによると、飲食店の入居に比べフロア単体の賃料収入は下がる。しかし、三菱地所は「ビルの競争力を確実に引き上げる効果があった」との感触を示す。

実際、常盤橋タワーのオフィス入居率は竣工と同時にほぼ100%を達成した。出社とテレワークの組み合わせなど新しい働き方が浸透する中、入居企業からは「出社の動機付けとして社食の存在を挙げる社員が多い」との声が聞かれる。コストが負担となり自前で社食運営が難しい企業にとっても「入居を決めていただいた要素の一つになっている」(三菱地所)という。

三菱地所は18年1月に移転した本社を活用し、オフィスビルに求められる新しい技術やサービスを実証している。その取り組みの一つが終日使えるワークプレイス兼社食として仕上げた「SPARKLE」で、MY Shokudoはこれを実際に導入した最初の例となる。今後は常盤橋タワーに詰め込んだ最新のハード・ソフトを検証し、実装につなげていく方針だ。

日刊工業新聞2022年8月3日

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