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ロボットが事故を起こしたら…?「法学会」設立難航

「社会進出」への課題多く、業界関係者から異論

 ただリスクはほぼ無限にある。深刻なのは随時データを取り入れて学習するタイプのAIだ。AIのプログラム開発者と学習用データの提供者の両者がAIの振る舞いを保証できない。人命を奪いかねないドローンや自動運転車の操縦をAIに任せるべきかという倫理問題に帰結する。

契約にも限界


 一方、高度な運用が求められる機械はロボット以外にもたくさんある。電力インフラや半導体製造装置などは、ユーザーにすべてのリスクを教え、対策を習得させることは難しい。そこでビジネスモデルと契約で解決した。装置メーカーがサービスとして機能を提供する。事故などの損害を開発者自身が負い、サービスを維持する人材や保守などの対価を認めさせている。

 だが現行法と契約モデルが技術の進化で機能しにくくなる例はある。スマートフォンやSNSの普及で写真や文章など大量のコンテンツが市場に流通。コンテンツビジネスは創作者によるコンテンツの単純な販売から、無償コンテンツを集めたプラットフォームを構築し、広告などで稼ぐビジネスモデルに転換中だ。骨董通り法律事務所(東京都港区)の福井健策弁護士は「コンテンツ一つひとつの価値が下がり、創作者の保護のために作られた著作権がその役割を終えるかもしれない」と指摘する。

 ロボットがコンテンツを量産するようになると、この流れに拍車がかかる。例えば、俳句は50音を17文字組み合わせた数しかない。AIで日本語らしいものに絞り込めば、ほぼすべてを発表できてしまう。現行法では機械による創作物には著作権は認められない。だが、AIで創作したことを隠して発表すれば、他者を著作権侵害と主張することは不可能ではない。福井弁護士は「機械の創作物に著作権を与えて独占させると影響が大きすぎる」と説明する。

 「プラットフォーム運営者は無償コンテンツで収益を上げ、創作者に還元するモデルをつくっている。コンテンツ一つひとつを著作権で守る必要性がなくなるのではないか」と予想する。

 予想できないトラブルに対して法律や技術、ビジネスモデルなど、どの解決策が機能するのか、選択肢は多いほど良い。ロボットやAIの社会実装に向けて多面的な議論は必須だ。ロボット法学会がその舞台となれるのか、動向が注目される。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2016年1月18日 深層断面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「法学会立ち上げで起きた食い違いが、他の分野でも起こることが予想されます。異分野の専門家の間でも齟齬が起こるので、市民が混ざるとどんな齟齬がおこるのか予想が難しいです。一方、消費者期待基準がそのまま適用されてしまうとロボット実用化の壁は高くなるので、極端な落としどころに収まらないように、社会のリテラシーを上げていく必要があります。  今回の記事では、俳句のすべての組み合わせは106文字の17乗なのでだいたい10の34乗で100溝(10京の10京倍)なのですが、世界のストレージ容量よりも遙かに大きいと指摘されています。こういう、ありがちな落とし穴に異分野の人間は簡単に引っかかります。リテラシーが足りていないのは記者でした。反省します。 (日刊工業新聞社編集局科学技術部・小寺貴之)

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