ロボット支援手術数が国内トップクラス、藤田医科大が広げる先進外科治療の可能性
身体への負担が少ないロボット支援手術を選択する患者が増えている。保険適用の対象拡大など保険制度の整備とともに、医師のロボット操作や技術の高度化が普及に貢献している。ロボット支援による手術総数が4849件(2022年3月末時点)と国内トップクラスの実績を持つ藤田医科大学は最先端の手術法を学べるトレーニングセンターを設け、外科医の技術向上を推進。先進外科治療の可能性を広げている。(名古屋・鈴木俊彦)
患者の負担が少ない手術法では、1990年代半ばに導入が進んだ腹腔鏡など内視鏡下手術が知られている。手術支援ロボットは体内を3次元(3D)画像で確認でき、執刀医の手の震えを補正するなど内視鏡手術の課題を補完し、より精度の高い手術を可能にする。
藤田医大は08年に、手術支援ロボットの先駆けとなる「ダヴィンチ」を導入。12年4月に米インテュイティブ・サージカル(IS)公認の訓練施設「ダヴィンチ低侵襲手術トレーニングセンター」を学内に開設した。
ダヴィンチでは執刀医がサージョンコンソールというコックピットで3Dモニターを見ながら、コントローラーとフットスイッチを操作して手術する。同センターでは外科医が細かな操作方法など、ダヴィンチの取り扱い方を主体に学ぶ。
IS公認の訓練施設は同センターを含めて、国内には2施設のみ。このため、他の医療施設の外科医も多数参加しており、総受講者は約1500人に上る。現在は基礎操作の習得が目的だが、同センター長を務める宇山一朗教授は「より高度な技術のトレーニングも行えるようにしたい」と将来を見据える。
医師の技術研さんの一環で、藤田医大病院の手術見学も可能。また藤田医大独自の施策として月2回、若手外科医を対象にした指導にも取り組んでいる。
ロボット支援手術の普及に伴い、期待が高まる遠隔手術の実用化にも意欲的だ。21年5月に、愛知県豊明市にある藤田医大と約30キロメートル離れた同大岡崎医療センター(愛知県岡崎市)で遠隔手術の実証実験を実施。両施設を光専用回線で結び、国産手術支援ロボット「ヒノトリ」を用いて行った実験では、手術の精度に影響する通信の遅延について、理想とされる0・05秒以下を大幅に上回る0・027秒まで抑えられた。
遠隔でも現場での手術と同様の執刀ができたことで「医師へのロボット支援手術の指導にも役立てられる」(宇山教授)と見通す。
手術支援ロボットは国産化が進むことで開発競争が加速し、今後低価格の流れを促すとみられる。医療現場にとっては、導入のネックとなる初期費用などコスト低減が期待できそうだ。
一方で、ロボットによる遠隔手術の実施に不可欠な光専用回線のネットワーク構築は、国立大学病院などに限られるのが現状だ。膨大なコストを要するものの、宇山教授は「通信環境が整えば、遠隔手術は非現実的なものではない。今後、2次医療圏でいかに広げるるかだ」と指摘。技術の底上げのための環境整備が急がれる。