多数の無人航空機が自在に飛ぶ未来支える、UTM研究開発の今
空撮や農薬散布、測量、インフラ点検などさまざまな分野で飛行ロボット(ドローン)の利用が進んでいる。しかし、そのほとんどは操縦者(またはその補助者)が目視で安全を確認できる限られた範囲での運用に留まっている。物流をはじめとする無人航空機の更なる利用拡大―『空の産業革命』を実現するためには、多数の無人航空機が運航者の目視範囲を超えて自在に飛行できるようにならなければならない。そこで必要とされているのが「運航管理システム/UTM」の構築である。
UTM(UAS Traffic Management)とは、有人航空機のATM(Air Traffic Management)に相当する交通管理/管制の概念である。しかし、有人航空機に比べてはるかに多様かつ多数の飛行が予想され、またその運航に掛けられるコストが限られる無人航空機に対して、管制官や地上施設による現行の航空交通管制と同じ方法は適用できない。UTMでは情報通信技術などを活用して自動化された情報共有と調整の仕組みを実現する必要がある。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2017年度にスタートした経済産業省/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」に参画し、情報通信など異分野異業種の民間企業や研究機関と連携協力して運航管理システム/UTMを開発している。
JAXAはシステムの全体設計を担当し、民間企業による複数の運航管理システム/サービスから構成される分散協調型システムの運用コンセプトを定義するとともに、シミュレーターを用いた検証・評価を行ってきた。また、同じ空域を飛行する有人航空機の飛行情報を共有して安全を確保するとともに、災害時には運航統制を可能とするための研究開発などを進めている。
無人航空機が運航者の目視範囲を超えて安全に運航できるようになり、物流などに利用が広がると、より広域を飛行できる機体が必要になる。JAXAでは、特に広域災害における迅速な状況把握や緊急物資輸送への利用を想定して、従来のマルチコプターと呼ばれる機体に比べてはるかに長い距離を高速で飛行可能な固定翼型およびティルト・ウイング垂直離着陸機(VTOL)型の無人航空機システムやその飛行制御技術などを開発し、民間企業などへの技術移転を行っている。また、その運用において課題となっている自動化レベルの向上を目指した研究開発を進めている。
JAXAは、これらの研究開発によって、空飛ぶクルマも含めた新たなモビリティーシステムの実現に貢献するとともに、無人航空機の利用拡大を通じて災害対応をはじめとするさまざまな社会課題の解決に貢献することを目指している。(月曜日に掲載)
航空技術部門 事業推進部 計画マネージャ
原田 賢哉
00年航空宇宙技術研究所(現JAXA航空技術部門)入所。成層圏プラットフォームや高高度滞空型無人航空機などの研究開発に従事。21年11月より現職。