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東大発ロボットベンチャーをグーグルに売った男が語る起業家人生

米フラクタCEO・加藤崇氏インタビュー
東大発ロボットベンチャーをグーグルに売った男が語る起業家人生

米フラクタCEO・加藤崇氏

 人工知能(AI)ベンチャーの米フラクタの加藤崇最高経営責任者(CEO)は、2018年5月に栗田工業へフラクタの過半の株式を売却した。同社は水道管更新の最適化ソフトを展開する。加藤CEOは、米グーグルが13年に買収した東京大学発ロボットベンチャー、シャフトの元共同創業者。2連続の持ち株売却は起業家として大きな成功だ。起業家に求められるものを聞いた。

 -ロボットから水道管更新ソフトへ、なぜ転身したのですか。
 「シャフト売却後、配管点検ロボット技術を持つフラクタの前身となる会社に出会った。米国の成功が世界で成功する近道のため、最初は、投資に積極的な米国の石油業界でロボット採用を狙った。だが、競合がロボットを使わない低コスト技術を提案し、うまくいかなかった。ガス配管は厳しい規制の壁があった。『管』を軸にローラー作戦で進んだ結果、水道管にはまった。フラクタのソフトは、米国で30以上の水道局が採用している。日本でも採用を目指す」

 -最終的にロボットを使いませんでした。
 「ロボットを使うと採算が合わない。過去の配管破損データと土壌や気候などの環境データをもとに、配管破裂を最少化できる更新順序を算出するソフトとした。米国で30年間に約110兆円を投じる水道管更新費用を30-40%減らせる。ロボットは大好きで、技術者への仲間意識も強い。だが、『オポチュニティ』を求めるのがビジネス成功の法則だ」

 -オポチュニティとは何ですか。
 「オポチュニティは、どんな角度から見ても利益があると予想できるもの。起業家はこれを求め、進む方向を決める。大学卒業後に銀行で企業の立て直しに携わり、無理に祖業を延命してつぶれた企業を見てきた。そこでオポチュニティこそ重要だと痛感した」

 -グーグルを傘下に持つ米アルファベットは2足歩行ロボの開発を中止し、シャフト解散が報道されました。結末をどう見ますか。
 「グーグルの元技術部門担当副社長だったアンディ・ルービン氏がいなくなった時点で予想できた。良い技術者がいても、異常なまでの熱心さや繊細さを持った起業家がオポチュニティを求めて立ち上がらなければ、事業はうまくいかない。ただ、ヒト型ロボットの将来性は消えていない。世界的なガッツのある起業家が取り組めば、いずれ市場は立ち上がる」

 -AIの新規ビジネスで成功するポイントは。
 「AIは最終的に何でもできるが、ビジネスではインパクトのあるアプリケーションを見つけて、いかに速く製品を出せるかが勝敗を分ける。日本では、分野を絞り込めずに『AIで何かをやりたい』という企業がいて、それにAIベンチャーが受託開発で応えるという構図もある。ベンチャーが広いポートフォリオを持って、世界で勝てると思えないが、今はお金が回る変なウィン-ウィンの関係ができている」

 -起業家に必要な資質は何ですか。
 「ハードウエアでの起業は下積みが長く、ロマンはあるが大変。お金もうけ以外の動機やガッツがあるかどうか。起業家は骨太で『ワケあり』な人が多い。私の場合はひとり親で育って経験したことで、それが自分の決断を支える力にもなる。真面目に物理を学び、展示会に出て、企業を訪問する。日本人らしく勤勉に、ストイックなアスリートのように仕事をすれば、オリンピック出場のような成功もできる」

【略歴】1978年生まれ。早稲田大学理工卒。元スタンフォード大学客員研究員。東京三菱銀行などを経て、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFT(シャフト)共同創業者。2013年11月、同社を米グーグルに売却し、注目を集めた。15年6月、米フラクタの前身となるソフトウエア開発会社を米シリコンバレーで創業し、CEOに就任。18年5月、同社の過半の株式を栗田工業に売却。著書に「未来を切り拓くための5ステップ」(新潮社、2014年)、「無敵の仕事術」(文春新書、2016年)
新著「クレイジーで行こう!グーグルとスタンフォードが認めた男、『水道管』に挑む」(発行:日経BP社)
日刊工業新聞2019年2月13日掲載から加筆
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
2連続でEXITを成功した起業家というと華やかなイメージですが、加藤さんはストイックで熱い人でした。インタビューは、トークショーの開催された代官山蔦屋書店で行いました。このほど発売された書籍の担当編集者のS氏が「あとがきを読んで泣いた」というエピソードもとても素敵で、こういう人が本を作っているんだと思いました。関係者のみなさま、ありがとうございました。

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