全固体電池で生かす、物材機構がMOP推進で産業界の技術力底上げ
物質・材料研究機構が産学連携の方法論を進化させている。磁石や電池などでマテリアルズオープンプラットフォーム(MOP)を推進し、業界の基盤的共通課題を企業と協力して解く。産学連携は成果が論文化されて公開されるため、産業競争力として蓄積しにくいという課題があった。だが知識は論文としてオープンにしてもデータはクローズにして研究競争力に変えられる。産学連携で産業界の技術力を底上げする挑戦になる。(小寺貴之)
「日本は常に希土類などの資源リスクにさらされてきた。MOPで学術成果共有と産業競争力強化を同時に進める」と物材機構の宝野和博理事長は力を込める。物材機構はTDKと大同特殊鋼、信越化学工業、日立金属と磁石MOPを発足した。ネオジム磁石などの希土類磁石の原理を解明し、製造プロセス設計に使う熱力学データベースを構築する。
希土類磁石が磁力を発揮する原理がわかれば希土類比率を抑えた材料を設計できる。磁石の原理は論文として世界に公開しても、集めたデータは秘蔵できる。データは人工知能(AI)モデルに学習させて物性予測ツールとして利用し、熱力学データなどと組み合わせることで製造プロセスを設計するための温度条件などを導ける。学術界と産業界の両方のニーズに応える仕組みになる。
大同特殊鋼の清水哲也副社長は「民間企業だけで集まるのは難しい。中立な物材機構が中核となるから連携できる」と説明する。TDKの佐藤茂樹常務執行役員は「基礎なくして応用はない。MOPを業界の成長につなげたい」と力を込める。
物材機構は電池や部材メーカーなど10社と全固体電池でMOPを推進する。酸化物系固体電解質の界面現象を分析し、電池の劣化原理などを解き明かし性能向上につなげる。高田和典エネルギー・環境材料研究拠点長は「各社の開発を加速させたい」と説明する。
自動車など巨大な業界を形成してきた分野は産学官で技術開発戦略をまとめ実行してきた。部材や素材側が旗振り役となり、連携を推進するのは簡単ではない。素材や部材メーカーは製造プロセスを秘匿してノウハウを競争力としてきた面もある。だが中国の躍進で競争優位はいつまで続くか不透明な状況だ。希土類磁石の論文数では資源大国の中国が他を圧倒している。
AI技術の進歩で論文を公開してもデータを産業競争力にできる環境は整った。MOPで産学連携が次の形に進むか注目される。