【ディープテックを追え】社会インフラに活用。AIとデジタルツインで「未来予想」
近年、限られたタスクに人工知能(AI)を活用する事例が増えてきた。カメラによる人流の把握や不良品検査などが一例だ。グリッド(東京都港区)はこれまで難しかった社会インフラの領域でAIを使い、運転管理を最適化する。すでに電力会社や郵船会社と組んで、開発を進める。
社会インフラに活用
「社会インフラのように膨大な組み合わせの中から、最適解を選ぶ場合、過去のデータからパターンを選び出すだけでは不十分だ」。曽我部完代表はこう指摘する。
AIの社会実装を推し進めた深層学習(ディープラーニング)は過去のデータパターンを学習し、現状に近いパターンを選び取っていた。だが、社会インフラの計画策定は気象やエネルギー排出などのさまざまな制約条件を考慮して将来の予測を行わなければならない。そのため過去の事象を学ぶだけでは予測には不十分だった。グリッドは現実世界をデジタル上に再現する「デジタルツイン」と運転計画を策定する「シナリオプランニング」でこの課題を解決する。
まず発電所などの業務ルールや物理法則をデジタル上に再現する。このデジタル空間上で、さまざまな状況をシュミレーションする。このデータと過去の運転データをAIに学習させることで、多様なシナリオを作成するシナリオプランニングを実現する。平常時の運転だけでなく拠点が活動できなくなるなど、想定外の状況もシュミレーションのデータを活用し、将来の予測を行えるようにする。また、ディープラーニング以外のアルゴリズムも活用する。曽我部代表は「インフラの課題を解決するために、使えるものを総動員している」と説明する。
SaaSに展開
現在は電力の発電計画や船舶の輸送計画、スマートシティーなどの分野で応用する。すでに北海道電力と協業する。水力発電の運転を最適化し、火力発電の出力を抑制して二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすことを目指す。実証実験では、今まで人が2時間程度かけていた運転計画の策定を数十秒で行えることを確認した。また1日の運転コストを3%減らすこともでき、2025年に本番運用を計画する。そのほかには出光興産と共同で石油の海上輸送計画を最適化するのに展開する。
今後はより計画策定の精度を高める開発を行う。将来は同システムをSaaS(サービスとしてのソフトウエア)として提供。海外での展開も狙う。また、デジタルツインとシナリオプランニングを供給網(サプライチェーン)マネジメントでいかす。22年中に製造業をターゲットにサプライチェーン構築を支援するSaaSを投入する予定だ。曽我部代表は「これまで培った技術を国外や顧客の多い分野へ展開していく」と展望する。
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