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空調の国際ルール形成…ダイキンは省エネ市場の主導権を握れるか

IEAと関係強化
空調の国際ルール形成…ダイキンは省エネ市場の主導権を握れるか

18年にIEAの分析者を招き大阪のダイキン拠点で開いた意見交換会

ダイキン工業が空調の電力消費と冷媒を規制する規格や政策の国際ルール作りをリードし、省エネルギーと温暖化防止の社会課題解決に挑んでいる。2025年度までの中期計画ではルール作りによる「市場価値形成」を打ち出した。環境当局者や学術機関などとのパイプを強化し、世界の空調最大手として規制への関与を図る。日本企業は環境関連のルールで苦杯をなめてきたが、空調では主導権を握れるのか。(大阪・田井茂)

「23年に日本で開かれる先進7カ国(G7)首脳会議を機会に、国と相談し、温室効果ガス削減貢献量のルール作りに関与していきたい」。ダイキンの小山師真東京支社渉外室CSR・地球環境センター担当課長は意欲を示す。小山課長は3月まで5年間経済産業省に出向し、環境政策に直接携わってきた。

ダイキンでは国際協力機構(JICA)と協力し、ブラジルの省エネ規制作りに参画。現地の大学や非政府組織(NGO)も巻き込み、省エネ空調を普及させる立法を支援した。小山課長は「法律を変える価値の証明や相談に3年かかったが、それでも早い方だといわれた」と振り返る。

00年代初めから急成長したダイキンにとり、国際ルールは死活問題。欧州では05年に冷媒の代替フロン禁止法案が提出され、存亡の危機に立たされた。必死のロビー活動で廃案となったが、ルール作りに深入りする原体験となった。

それから反撃に転じ、再生可能エネ使用促進指令の改定を働きかけ、欧州で高熱効率のヒートポンプ暖房給湯機の販売増に結びつけた。中国の空調省エネ基準改正にも関わり、ダイキンは10―14年に同国で空調需要を2000億円近く生み出したとする民間調査もある。新興国では省エネ性能の高い冷媒転換を支援している。競合に特許を無償開放し、事実上の標準としてルール形成を図ってきた。

中計では市場価値形成も目指す。国と協力して空調の国際規格や法令化を先導し、省エネと安全性で付加価値の高い市場を創造する考えだ。小山課長は「社会課題の解決で収益を上げるには、評価されるルールが必要。空調は省エネと冷媒のルールが競争力に直結する」と強調する。

国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、世界のエアコン台数は50年に16年比4倍以上に増える。追い風は吹くが、日本のインバーターや冷媒などの省エネ技術が支持され規制に反映されないと、優位性は揺らぐ。ダイキンは省エネや環境負荷の低いエネルギーを主導するIEAとの関係を深め、課題解決を世界に働きかけようとする。

21年にはIEA世界会議に初めて出席し、空調によるダイキンの解決策を示した。小山課長は「省エネ・フロンガス規制は世の中の巨大な流れに影響される。国際世論への働きかけが、より重要になる」と説く。

日本は石炭火力発電の廃止論議や電気自動車(EV)シフトといった環境政策で、ルールや世論の形成に後れを取った。企業は“技術で勝ってルールで負ける”劣勢が続く。経産省も企業の「市場形成力」を調査し、後押しする。市場を味方に付ける、したたかな戦略が環境ビジネスには欠かせない。

日刊工業新聞2022年6月20日

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