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古河電工社長が互いに「さん付け」で呼び合う会社の中で『社長』と呼んでもらう理由

古河電気工業社長・小林敬一氏が語る

「社員や現場のリーダーたちが一番良い仕事ができるように後押しするのが自分のリーダーシップ」。その姿勢の原点になったのが、巻線の事業部で部長を務めた経験だ。赤字を立て直し、黒字転換を果たしたが、当初は苦難の連続だった。直前まで原価低減推進部長として、巻線事業の問題点を厳しく指摘する立場だったからだ。

原価低減推進部長はその名の通り、事業を視察して原価低減の余地を見つけ改善につなげるのが仕事。「グループで最も嫌われる男になるのがミッションだと思っていた」。課題を指摘する側から指摘された課題を解決する側への異動に自身も驚いたが巻線事業の社員たちも驚愕した。これまでの不満と今後への疑念が募り「最初の半年間は四面楚歌どころか八面楚歌。誰も口を利いてくれなかった」。

「部長は巻線事業をつぶしに来たのですか」。こう聞いてきた若い幹部に「絶対に立て直したい」と率直な思いを伝え、利益改善ストーリーを話した。巻線が赤字に陥っているのは、設備稼働率を重視する余り、利益が出ない製品も受注しているためだ。「稼働率の『奴隷』をやめ、値上げが認められた製品など、利益率の高い巻線の生産を増やせば黒字化できる」。

幹部の意見を聞いて中身を練り上げ、皆が納得する再建案が完成した。「幹部も『黒字化に向けて一緒に立て直そう』と言ってくれた。腹落ちすれば皆が一枚岩になる。一枚岩になった組織は強い」。着任時、赤字だった巻線事業は翌年には早くも黒字転換した。「以前は自分が先頭に立って皆に付いてこいというタイプだった。巻線での経験で、皆が仕事しやすいように後押しするリーダーシップの大切さを学んだ」。

その後も大雪の被害を受けた日光工場の復旧指揮などを経験したが、「自分でなければできないと思ったことは一度もない。リーダーとして皆と一緒に仕事をさせてもらえて良かったと感謝している」。

一方でリーダーは時に事業の存続・撤退などの困難な判断を下す必要もある。「当社は互いに役職でなく『さん』付けで呼ぶが、私自身は『社長』と呼んでもらっている。最終局面では私一人で決断し、その内容に責任を持つ覚悟を持つためだ」。

大学時代の恩師が修士論文の表紙の裏に記してくれた「白圭尚可磨(はっけいなおみがくべし、物事を成し遂げても謙虚に努力を続けよの意)」を大事にしている。現状に満足せず、組織の絶えまない成長に向けて社員と気持ちを一つにして歩む経営を目指す。(山田邦和)

【略歴】こばやし・けいいち 85年早大院卒、同年古河電気工業入社。14年執行役員、15年取締役兼執行役員常務、16年代表取締役兼執行役員専務、17年社長。北海道出身、62歳。
日刊工業新聞2022年5月17日

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