蓄電デバイス「キャパシター」を高性能化、NIMSが成功したカギ
超スマート社会の実現に必要な、IoT(モノのインターネット)やIoH(人のインターネット)の発展、そして再生可能エネルギーのさらなる普及・活用にむけて必要とされるのが、革新的な特性を持った蓄電デバイスである。多数のセンサーを駆動させ、大きく変動する再生可能エネルギーの出力を安定化させるためには、小型軽量化、安全性、急速充放電特性など、現在広く用いられているリチウムイオン二次電池では実現できないレベルの蓄電デバイスが求められる。
これに応えるため、我々は従来の性能を大きく越えるキャパシターの開発に成功した。カギは、2種類のナノ構造を持った炭素材料を組み合わせたことにある。キャパシターは、二次電池の数十分の1という短時間での充電が可能で、高速・高出力で電気を取り出すことができる。一方、ためられるエネルギーは二次電池の数分の1にとどまる弱点がある。
これを克服するため、既存のキャパシターの電極材料である活性炭にかえて我々が着目したのが、同じ炭素材料であるグラフェンである。グラフェンは原子サイズの厚みしかない薄膜であるため、電気を蓄えられる表面積が極めて大きい。しかし当初は薄膜同士が癒着し、大きな表面を有効に活用できなかった。
そこで、同じ炭素材料であるカーボンナノチューブをグラフェン薄膜同士の間に挟みこむ工夫を行った。この手法により、グラフェンの表面を最大限に活用し、重量比ではニッケル水素電池と同程度のエネルギーを蓄えることが可能になった。
この独自のグラフェン複合材料を用いた、グラフェンスーパーキャパシター(GSC)の開発・製造に向けて、2017年、NIMS認定ベンチャーとしてマテリアルイノベーションつくば(MIつくば)を起業した。既存の3分の1のサイズで5倍のエネルギー密度という、他の追随を許さない超小型の蓄電デバイスであるGSCが、我々のコア技術である。
現在は材料の高性能化と封止技術の確立、低コスト化・量産化プロセスの確立に取り組んでいる。すでに将来への期待の声を多数いただいており、資金的な支援に加えて、つくば研究支援センター(TCI)が実施する事業プランコンテスト「TCIベンチャーアワード」で特別賞などの賞も受賞した。今後IoH用途を手始めとして、ロボットや飛行ロボット(ドローン)、IoT、センサー、さらにはモビリティーや再生可能エネルギー分野への展開を目指し、超スマート社会の実現に貢献したいと考えている。
物質・材料研究機構(NIMS) エネルギー・環境材料研究拠点 上席研究員 唐捷
中国清華大学卒業、大阪大学大学院博士課程修了、博士(理学)。科学技術庁金属材料技術研究所入所、現NIMS上席研究員、筑波大学物質・材料工学専攻連携大学院教授も併任。