植物工場「省エネ」で覚醒!電機メーカーが培った制御技術活かす
雇用生み地域活性化
LEDと空調カギ、製造現場で培った制御技術生かす
自然光を使わない「完全人工光型植物工場」のシステムをパナソニックが売り出している。アグリ事業推進室の松葉正樹主幹は「世界一運用コストが安い植物工場」と強調する。
人工光型は外気や外光を遮断した室内に野菜を育てる棚を並べた工場が一般的。棚すべてに取り付けるため蛍光灯の本数が多い。蛍光灯の発熱による室温上昇を抑えるために空調も欠かせず、電力消費が膨大だ。青色と赤色の発光ダイオード(LED)を採用するパナソニックの植物工場は、蛍光灯型工場よりも60%省エネ化した。白色LED工場と比べても30%電力消費が少ない。
バラつきなく成長
その理由が「LEDと空調との合わせ技」(松葉主幹)。生産現場で培った空調技術で、室温のばらつきを1・5度Cに抑えた。どの棚も温度が均一なので、野菜の成長にばらつきがない。60―70%とされる歩留まりの悪さは、植物工場の赤字の原因だ。パナソニックの植物工場のレタスの歩留まりは95%。生産性が高く、コストを低減できる。工場で当たり前の自動化技術を種まきや棚の入れ替えに採用し、人件費も低減する。「設備が悪かったら赤字。工業化しないと植物工場は成立しない」(同)と強調する。
パナソニックは植物工場システムを丸ごと販売しており、4件の受注がある。16年にも納入が始まる模様だ。
安定供給に強み
植物工場のコスト低減が進んでいるが、露地栽培の価格までは下がりそうにはない。それでも天候の影響を受けずに安定供給できる強みがある。植物工場の経営者は事業計画を立てやすく、閑散期もないため安定して雇用できる。露地栽培よりも狭い場所で生産できるので、異業種の中小企業でも土地や建物を有効活用できる。
デロイトトーマツは25年に国内の植物工場の建設額が13年の6・9倍の5246億円に拡大すると予想する。人口増加や異常気象で食糧不足が懸念される新興国もターゲットだ。富士電機の濵口部長は「物流業者とも組んで東南アジアに展開できるビジネスモデルにしたい」と話す。
「VB再生」
“植物工場ベンチャー”と知られ、東日本大震災の被災地に進出して脚光を浴びた「みらい」が15年6月、経営破綻した。みらいの社長だった室田達男氏は「工場システムの構築に課題があった」と振り返る。コストや制御など植物工場ビジネスの難しさが浮き彫りになった。
みらいの事業はマサル工業(東京都豊島区)が取得した。同社は通信、電設分野のケーブル保護材の他に、農業向けかん水システムの開発、製造、販売を手がける。事業取得で農業資材事業を柱に育てる方針だ。
みらいが所有していた千葉県柏市と宮城県多賀城市の植物工場はともに面積約1300平方メートルで国内最大規模。レタス類を中心に日産1万株を栽培する。マサル工業の椎名吉夫社長は「設計製造技術で力になれる。必要であれば部材も製造可能だ」と意気込む。
大手製造業の植物工場事業への参入が目立つが、実際には中小企業の進出が多い。低コスト化によって植物工場の普及が促されると、中小企業による雇用創出や地域活性化に拍車がかかりそうだ。
(文=松木喬、苦瓜朋子)
日刊工業新聞2016年1月7日 深層断面