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通信が安定した遠隔授業システムを実現、「ICN」研究開発の現在地

新型コロナウイルスの感染拡大によりさまざまなサービスのオンライン化が進み、中でも大学などの遠隔授業は広く普及した。しかし、映像や音声が乱れると教師の講義内容が伝わらず、学生の理解度に悪影響を及ぼすことが指摘されている。その主な原因は、多数の学生が同じ授業映像に同時にアクセスし、サーバーに負荷が集中して対応しきれない状態になったためである。

NICTでは、情報指向ネットワーク技術(ICN)と呼ばれる技術を活用し、安定した通信品質を維持可能な遠隔授業システムの研究開発を行っている。ICNは、ネットワーク内にコピーされたコンテンツを視聴者の要求に応じて取得する形態、いわゆるマルチキャスト通信を行う。そのため、従来方式と異なりアクセスする学生が増えても、サーバーなどの負荷を軽減できる。加えて、ネットワーク内にコピーされたコンテンツは視聴者の近くに分散される特徴があるため、通信遅延も抑えられる。

現在、我々はICN導入を容易にするために、通信ソフトウエア「Cefore」を開発し、誰でも利用可能なオープンソースとして公開している。本ソフトウエアはICNの実用化に不可欠となる実証実験やさまざまな応用の実現を後押しする。

2020年度末、明石工業高等専門学校協力の下、Ceforeを用いた遠隔授業システムの実験を実施した。この実験では、工学系の実技授業を配信するため、教師の手元や細かな作業を見やすくすべく、HD画質の倍以上の品質で映像転送を行った。多数の生徒たちが高品質な授業映像を同時に視聴する遠隔授業では、ICNによるマルチキャスト通信の恩恵を受けることができ、本実験では通信量の9割を削減できた。また、授業後のアンケートでは7割以上の生徒から今後も利用したいと好評を博した。

私たちは、今後も高品質な配信技術に対する研究開発を続ける。仮想現実などの応用が叫ばれる中、将来はICNの高臨場感通信への応用も期待できる。

ネットワーク研究所・ネットワークアーキテクチャ研究室 研究員 大岡睦

17年大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了。同年NICTに入所。情報指向ネットワークなどのネットワーク技術関連の研究に従事。博士(情報科学)。
日刊工業新聞2022年4月12日

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