「量子メス」高度化へ、世界初「マルチイオン源」を開発した意義
量子科学技術研究開発機構は、住友重機械工業と、重粒子線がん治療を高度化するマルチイオン源の開発に世界で初めて成功したと発表した。1994年に初めて開発に成功した重粒子線がん治療装置「HIMAC」にまず導入した。治療室でのマルチイオン照射を実現しマルチイオン治療の臨床研究を進める。マルチイオン源は次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」を構成する主要装置の一つ。膵臓(すいぞう)がんなど難治性がんに対する治療成績の向上につながると期待される。
量研機構と住友重機械工業は16年から量子メスの要素技術開発を続け、マルチイオン照射ができる実証機の開発に着手していた。
入射器部分のイオン源から、ネオンや酸素、ヘリウムといったがん細胞を殺傷するエネルギー量の異なるイオンを出力するとともに、イオン種を1分以内で高速に切り替えられる。普及を見据え市中病院に設置できるように、永久磁石と半導体マイクロ波増幅器を採用。床面積で従来比5分の1となる幅0・8メートル×奥行き3・1メートルの小型化を実現した。
量子メスの技術実証・臨床を行うために新設する「量子メス棟(仮称)」が24年度に完成した後、マルチイオン源を25年度をめどに移設する。小型線形加速器、超伝導円形加速器と組み合わせ、量子メス実証機の一部となる。
がん細胞の殺傷効果を高めながら患者負担のさらなる低減を図るためには、がんの悪性度に応じて複数のイオンを最適に組み合わせ、現在の炭素イオンビームを用いた重粒子線がん治療を高度化する必要がある。
量研機構は外科治療などほかのがん治療法と比べて患者への負担が軽く、免疫機能を温存する重粒子線治療を将来のがん治療の基本的手法と位置付ける。国内では7施設で炭素線を用いた治療が行われている。21年末までの治療患者数は約3万3000人。