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GaNパワーデバイスの出願で世界をリードするニッポンの「特許力」、逆に出遅れ分野は?

特許庁は、2021年度の特許出願技術動向調査を発表した。同調査では、世界中の特許情報を論文などと合わせて分析、各国や各企業の研究開発動向を把握する。毎年、将来の進展が予想される技術テーマを選定する。今回の技術テーマは「窒化ガリウム(GaN)パワーデバイス」「ウイルス感染症対策」「教育分野の情報通信技術の活用」「手術支援ロボット」。GaNパワーデバイスを除き、日本の存在感は薄く巻き返しが必要だ。(編集委員・池田勝敏、孝志勇輔)

【GaNパワーデバイス】日本が世界的リード

ロームが量産するGaNデバイス

パワーデバイスは鉄道や自動車、スマートフォンなど各分野で応用されており、世界的な脱炭素化の流れでさらなる省エネルギー化に向け性能向上が求められている。

パワーデバイス素材の中でも、現在主流のシリコン結晶基板を使ったものは特性改善の限界が近づいてきた。そこで注目されるのがGaN。材料特性は、バンドギャップがシリコンの約3倍、絶縁破壊電界は同約11倍。低消費電力につながる次世代技術として普及が期待されている。

GaNパワーデバイスの日本国籍の発明数は全体の43・9%を占め最大。GaNパワーデバイスは横型と縦型があり、縦型を実現するには「バルク結晶」の品質がポイントとなる。日本はこのバルク結晶分野で、特許出願や論文発表で世界的に活発に活動している。

バルク結晶分野の出願人別発明数のランキングでは上位9位まで日本企業が独占。住友電気工業が最多で、三菱ケミカル、日本ガイシなどが続く。

調査では、低コストで高信頼なバルク基板の実現に向けて、研究開発の推進が期待できるとしている。

【ウイルス感染症対策】ワクチン開発出遅れ

日本国籍の発明数は全体の3.2%と日本が出遅れていることが分かった(ワクチン接種、2月25日=東京海上HD)

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、ウイルス感染症対策の重要性があらためて認識された。今回、ウイルス感染症対策のうち、予防・治療技術(抗ウイルス剤、ワクチンなど)、検出・診断技術(核酸、抗原、抗体分析技術など)を対象に調査した。

日本国籍の発明数は全体の3・2%。メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンや次世代シーケンシング(DNAの正確な塩基配列の解明)による検出や診断といった新型コロナ感染拡大後に実用化が進んだ技術に関して、日本が出遅れていることが分かった。

中国籍の発明数は65・4%と最大シェア。日本、米国、欧州籍出願人の自国・地域への出願が総件数の約35―50%であるのに対し、中国籍出願人は自国への出願が約93%だった。中国籍出願人の自国への出願が多いことがシェア構成に影響している。

調査では、mRNAも次世代シーケンシングも技術は完成に至っていないとして、日本が培ってきた技術力を各種技術の完成度向上に生かすことが望まれるとしている。

【教育分野の情報通信技術活用】中国籍が近年増

教育分野の情報通信技術(ICT)の活用に向け、日本の出願は増加しているものの、海外と比べると見劣りする。国や地域ごとの出願人をみると、中国籍が近年増えており、全体の約5割を占める。同国国内への出願が多いという。韓国籍が約2割で続いている。一方、日本国籍は約7%だ。

生徒一人ひとりに応じた個別学習の最適化や指導者支援を進めるために、人工知能(AI)の必要性が高まっている。今回の調査では中国、韓国ともにAIの利用に関する出願が急増しているとした。日本でも教育と科学技術を組み合わせる「EdTech(エドテック)」を推進する中、教育現場へのAIの普及につながる研究開発が求められそうだ。

また学習・指導記録とAI利用の観点での出願傾向を分析すると、「スタディログ(学習記録)」にかかわる出願が多く、「アシストログ(指導記録)」の出願が少なかった。両方のログを紐付けることで指導の効果を高められることから「AIによりアシストログを分析する技術開発に注力すれば優位に立てる」(特許庁)とした。

【手術支援ロボット】米国籍全体の5割

日本は医療機器産業の重点分野の一つに同ロボットを位置付けており、研究開発の活発化が期待される(国産初の手術支援ロボット「ヒノトリサージカルロボットシステム」)

手術支援ロボットの特許出願では米国が先行している。国・地域別の出願人のうち、米国籍が全体の約5割を占めており、二番手の中国籍が15%、日本国籍は約9%にとどまる。米国の出願の多さは同ロボット市場での競争力につながっているといえる。米国企業が腹腔鏡手術向けでほぼ100%、整形外科手術向けでも約7割のシェアを握る寡占状態だ。

人の手と同様の施術精度が求められる同ロボットの技術が進展しており、出願傾向にも表れている。今回の同調査では、手術計画やシミュレーション、手技データの配信といったデータ活用にかかわる出願が増えているとした。

一方、AIを利用し、同ロボットの自動化や半自動化が将来的に見込まれており、関連する特許出願も増加している。将来的に呼吸器や消化器、循環器などを対象に、AIと画像認識技術を手術の状況判断や意思決定に役立てることにつながりそうだ。

日本は医療機器産業の重点分野の一つに同ロボットを位置付けており、研究開発の活発化が期待される。

日刊工業新聞 2022年4月28日

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