Z世代起業家は「社会変化の表現者」 背景にはアクティブラーニングも
1990年代後半に生まれたZ世代の若者たちが起業するケースが増えている。彼らの進出によって社会はどう変化していくのか。社会学を研究し、自身のゼミナールからも起業家が生まれているという慶應義塾大学文学部の岡原正幸教授に話を聞いた。岡原教授は「Z世代は、社会を自分たちを表現する“舞台”として見ている」と話す。Z世代起業家たちが「社会の変化の表現者」になるとし、彼らによる社会への影響にも注目する。 (聞き手・伊藤 快)
―Z世代とはどのような人たちなのでしょうか。
「Z世代は社会の大きな流れの最先端に立っている人たちだと考えます。 若者は社会の変化を如実に感じ取ります。今後の社会がどのように動くのかを暗示する存在であると言えます」
「Z世代の起業家が現れるのも、現代の教育が起因となっているのではないかと考えます。Z世代と呼ばれる人々はこれまでの学生生活の中で、主体的に学ぶ『アクティブラーニング』を当たり前のものとして取り込んでいます。 自由研究や学習発表などを通して自分を表現することの大切さを理解しているのです。昨今では新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に、教室に電子端末を持ち込んで“自分たちで考える”学習体系が確立しつつあり、この動きも活発化しています。
そうした中で、自らの主張を発信するために起業を選ぶケースも現れました」
―なぜZ世代は社会課題を意識するのでしょうか。
「生きていく以上、社会の持つネガティブな事柄に関心を持つことは、ある意味では当然のことです。パーソナルに自分の考えを表現できる今の時代だからこそ、SNSなどの技術の普及も合わせて、社会課題への関心を示す人たちが表層化してきているのではないでしょうか」
「高度経済成長期に入っている1960年代頃は社会課題の解決は経済的なセクターではありませんでした。経済を回す企業と、社会運動団体は分断されていたのです。現代では考え方の多様化が進んだことで、その枠組みが曖昧化し、ジェンダーや環境などの社会課題の解決に取り組む企業が生まれています。それを子どもたちが運営することも当たり前になっています」
―Z世代起業家は現代社会をどのように分析していますか。
「自分たちを表現するための『舞台』として捉えています。自分たちの『役割』と『ストーリー(将来設計)』を自分たちで考えながら社会という舞台に立っています。
親世代が与える『ストーリー』に沿った生き方が現代では難しくなっていることも一因ですが、ここでも、アクティブラーニングなど自分を表現する教育を受けてきたことが影響しています。そして自分を表現することで、他人からの拍手、つまり承認を受けたいという側面がZ世代には色濃く表れています」
「Z世代は営業成績など一般的な評価基準に関心が薄く、独自の評価基準を持っています。評価を受けていても、それが自分たちの基準に合致したものでなければ、評価されていると感じない場合もあります。彼らを見る『観客』の質も問われています」
―Z世代が今後の社会・産業へもたらす影響は。
「Z世代は変化していく社会に適応する最初の人々になります。現代の経済を回している層の人たちはZ世代を『変な奴ら』と思って放置していては、時流に取り残されることになる。企業の経営もZ世代の感性に通用しなければ立ち行かなくなります。社会変化の指針となるZ世代の動きを注視することが企業の生き残りにもつながるのではないでしょうか」
【略歴】おかはら・まさゆき 87年慶応大社会学研究科大学院単位取得退学、博士。08年同大教授。