女子大生起業家が「部屋着型ショーツ」で伝えるフェミニズムのメッセージ
Essay(エッセー、東京都北区)社長の江連千佳さん(21)は、フェムケア(女性特有の健康課題に対するケア)ブランド「I-for ME(アイフォーミー)」を通じ、ショーツ機能付きリラックスウエア「“おかえり”ショーツ」を販売する。女性が抱える課題を商品・サービス化することで、社会へ問題提起する。「ビジネスはブランドが持つメッセージを社会に届けるための手段」と話す江連社長に、起業の経緯やビジネスに対する考えを聞いた。(狐塚真子)
―創業の経緯は。
「きっかけは動画サイトで『ショーツの形に合わせて体毛を処理しないと、男性から嫌われてしまう』という趣旨の広告を見たこと。『なぜその価値観に合わせなければならないのか』と違和感を覚えた。実際にショーツについて女性にアンケートを取ってみると、形だけでなく、身につけたときの蒸れやかゆみについて問題を抱えている人が多いことが判明。デリケートな部分に触れるものだからこそ、自分に合った選択ができることが必要だと感じていた」
「同アイデアをもって、ビジネスコンテストの『TOKYO STARTUP GATEWAY 2020』に応募。ファイナリストになり、創業資金をもらえた。ショーツ自体が形になっていない状態でクラウドファンディングを行ったところ、1カ月で126人から70万円が集まった。内訳は20代が多く、2割は男性だった。女性へのプレゼントとしても検討されていた。ニーズがあることがわかり、部屋着型ショーツの開発を開始。21年3月から『“おかえり”ショーツ』の販売を始めた」
―起業へのハードルは感じていましたか。
「高校生のとき、ニュージーランドへ留学した。社会の授業では、ビジネス戦略を練り、元手である30ドルをどれほど増やせるかという授業を経験。ビジネスの面白さを認識した。ビジネスプランを考えたり、プレゼンテーションをしたりすることも好きだったので、高校生の時にはビジネスコンテストの『キャリア甲子園2017』にも出場。こうした経験もあり、起業へのハードルは感じていなかった」
―女性の健康問題を解決する「フェムテック」市場が盛り上がりを見せています。従来は女性特有の悩みに対して言及することはタブーだったと思いますが、この変化をどう見ますか。
「活動を始める前は、自分の取り組みがフェムテックに該当するとは知らなかった。ジェンダーやフェミニズムの活動を持続可能な取り組みにするために目を付けたのが、プロダクトとして落とし込み、D2C(消費者直接取引)で販売するというモデルだった。ブランド名には『私は、わたしのために選択する』という意味を込めた。ブランド、商品を通じ、『自分の体を自分で楽にすることができる』というメッセージを届けたい。起業自体が目的ではなく、メッセージを社会に届けるためにビジネス/起業という手段があると思っている」
―江連さんは津田塾大学でデータサイエンスを専攻していると伺いました。
「社会問題に対して数字という共通言語を用いて言及できる点にひかれた。そもそも女性のデータサイエンティストは少なく、女性に関する社会データや、女性の視点で取られたデータが少ないこともある。例えば、『自動車事故の際、女性のほうが男性よりも負傷しやすいのは、自動車の安全装備が男性を念頭に設計されているからだ』という問題が指摘されている。逆に女性目線だけのデータ、分析結果になってしまうことも起こりうるので、バランス良く取り組むことが重要。大学院に進み、研究を続けたい」
―今後の活動について教えて下さい。
「“おかえり”ショーツに対して、障がいを持つ人からの問い合わせが増えている。例えば、車いすで生活をしている人は、衣服を脱ぎ着するのに苦労する。“おかえり”ショーツは1枚着用するだけで完結するので、その分、負担も軽減できる。こうしたニーズは当初想定できていなかったこと。今後もアプローチする対象を広げていきたい」