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旭化成・住友化学・三井化学・三菱ケミカルが水平連携、「化学MOP」の現在地

NIMSが推進

化学業界のオープンイノベーション推進に向け、2017年度より物質・材料研究機構(NIMS)と化学系大手メーカー4社(旭化成住友化学三井化学三菱ケミカル)は水平連携による「マテリアルズ・オープン・プラットフォーム」(化学MOP)を開始した。個社では実現が難しい、化学業界各社に共通する課題の解決を目指している。

5者で協力しあうことの利点は多くある。例えば、数百種類のポリオレフィンについて数万点規模のデータを欠損データなく得られており、ポリマー材料では他に類を見ない緻密かつ網羅的なデータベースを構築することができている。また、それぞれのデータが全て実験の生データと正確にひも付けられている特徴も持つ。

このデータベースを基に、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用した高分子の性能予測技術を同じく5者で共同開発しており、より洗練された技術開発につながっている。

研究成果の一部を紹介したい。材料開発におけるMI研究では、一般的に材料組成や加工プロセスの条件から材料物性を機械学習で予測することで、材料開発を加速することができる。一方、プロセス加工後の構造が材料物性に強く影響する場合は、材料物性のより高い予測を実現するために、構造情報を与える測定データの利用が有効である。

化学MOPでは、ポリマー材料の強度(引張弾性率)やもろさ(シャルピー衝撃値)といった材料物性を機械学習で予測する際に、比較的容易にデータ取得可能なX線回折などプロセス成形加工後の材料構造情報を含む測定結果の有効活用を検討した。

その結果、少ない実験回数で、正確に材料物性の予測ができるよう、次に作製する材料(材料に関わる記述子)を適切に選択するAI技術(実験計画法)の開発に至った。実際の開発現場においても、予測しなかった物性値が関連していそうな実験結果を得られることがあるが、その物性値は実は試料の作製条件とは相関がなく、結局、目的の物性値を持つ試料の作製にたどり着けないということは多々ある。

この実験計画法に沿って、簡便に取り組める他の測定を行い、目的とする物性との関係性を明らかにできれば研究開発を加速することができる。これはまさしく材料開発のデジタル・トランスフォーメーション(DX)につながる有用な技術である。化学MOPの活動は継続中であり、今後も化学業界のオープンイノベーションは加速・発展していくに違いない。

物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 フロンティア分子グループ 外部連携部門 化学マテリアルズオープンプラットフォーム(化学MOP)兼務グループリーダー 中西尚志

2000年長崎大学大学院学位短期取得。日本学術振興会特別研究員を経て、04年よりNIMS勤務。独・マックスプランク研究所客員グループリーダーなどを経て16年より現職。

日刊工業新聞2022年3月2日

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