日本の材料研究が世界で優位性を確保するために不可欠、「データ駆動型研究」の現在地
材料の開発研究は、研究者の経験や勘を頼りに地道な実験を繰り返す研究から、データ科学を駆使したデータ駆動型研究への転換が図られようとしている。日本が従来のように材料研究や素材産業において世界の中での優位性を確保するためには、データ駆動型研究を加速させる必要がある。
そのためには、高品質なマテリアルデータを大量に収集し、それらをデータ科学による材料開発研究のために利活用する仕組みの構築が必要である。文部科学省はこの仕組みを全国規模で構築するため、2021年度から「マテリアル先端リサーチインフラ」事業を開始した。
データ駆動型研究では、大量のデータをいかに集めるかが重要である。日本は、この10年間、文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」事業において、全国25の大学および公的研究機関が有するナノテク・材料研究のための最先端装置群をネットワーク化し、誰もが最先端装置を利用できる研究環境を整備してきた。
これら最先端装置の利用件数は、毎年約3000件に上り、多くの研究者が共用化装置を利用して研究を行っている。すなわち、このネットワークから、日々、大量のデータが生まれている。「マテリアル先端リサーチインフラ」は、このネットワークの仕組みを発展的に継承したものであり、産学官の研究者が共用装置を利用して得た公開可能な高品質な実験データを大量に収集することが可能となっている。
物質・材料研究機構(NIMS)では現在、さまざまな装置からデータを自動収集し、データ科学を駆使した研究に使いやすい形式に変換するシステムを構築している。「マテリアル先端リサーチインフラ」では、このシステムを共用装置ネットワーク全体に展開し、23年度から全国規模での材料データの収集を開始する。
これにより、共用装置ネットワークで取得される公開可能なすべてのデータは自動でNIMSに送信され、データ駆動型研究に向けて蓄積される。蓄積データは共有財産として、産学官の材料研究者のデータ駆動型研究に利活用される。
「マテリアル先端リサーチインフラ」事業は10年間の事業として2021年度から発足した。NIMSは全国のデータ中核拠点としての機能を担うとともに、この事業全体を統括する役割も担っている。今後、この事業で蓄積されたデータが活用され、社会に役立つ革新的な材料が次々と生み出されることが期待される。
物質・材料研究機構(NIMS)理事 花方信孝
94年東大院工学系研究科博士課程修了。三井造船勤務を経て、97年東京大学客員助教授、01年東京工科大学教授、05年NIMSに入所。20年より現職。博士(工学)。